高齢のワンちゃんが、ある日突然足を痛がるようになると、
「すぐ治るものなのか」「大きなケガではないのか」と、
ご家族はとても心配になりますよね。
骨折、脱臼、靭帯(前十字靭帯)の損傷などが考えられます。
今回は、そんな状況で来院され、前十字靭帯を損傷していることが分かった15歳のはなちゃんの診察例をご紹介します。
同じような症状で悩んでいるご家族の参考になれば幸いです。
症例:シーズーのはなちゃん
シーズーのはなちゃん、15歳の女の子。


もう高齢なので、普段はソファで寝ていることが多いのですが、
私が出かけようとしたタイミングで目を覚まし、置いていかれると思ったのか、
急にソファから飛び降りてしまいました。
そのあとから、足の様子が少しおかしくなっています。

あらら・・・。確かに、左の後ろ足を浮かせていますね。

はい、ソファは膝くらいの高さでしたが、骨折でしょうか・・・?
診察 🐶

カルテを確認すると、もともと、右の膝は膝蓋骨脱臼の、グレードの2でしたね。

はい。ずっと言われていましたが、膝蓋骨脱臼で痛みが出ることはありませんでした。

膝蓋骨脱臼は、膝のお皿(膝蓋骨)が本来の位置からずれてしまう病気です。
特に 小型犬に多く、生まれつき起こりやすい子もいます。
🐾 主な症状
- 歩いている途中で 急に足を浮かせる
- スキップするような歩き方
- ひどくなると、足をかばって歩く・痛がる
📊 重症度(グレード)
- グレード1:たまに外れるが、自然に戻る
- グレード2:外れやすいが、戻ることも多い
- グレード3:常に外れているが、手で戻せる
- グレード4:常に外れていて、戻せない

これは 膝蓋骨の状態を表すためのグレード です。
グレードが高い=より強い痛みがある、というわけではありません。
💊 治療について
治療は グレードだけで決めるわけではなく、
痛み・歩き方・生活の質(QOL)を見ながら判断します。
- 軽度:体重管理・運動制限・経過観察
- 重度:症状によっては手術を検討

🌿 日常で気をつけること
- 体重管理
- ソファや段差の 飛び降り防止
- 滑りにくい床環境

左の膝を触ると・・・ドロアー試験(前十字靭帯のぐらつきを確認する検査)が陽性ですね。
🦴 ドロアー試験とは?

膝の中の靭帯(前十字靭帯)がしっかりしているかを確認する検査です。
獣医師が太ももとすねをそっと持ち、
本来は動かないはずの方向に ぐらつき(引き出しのような動き) がないかを確かめます。
✔ わかること
- ぐらつきがある
→ 前十字靭帯が切れている、または弱っている可能性 - ぐらつきがない
→ 靭帯は保たれている可能性が高い

ちょっと歩き方を確認します。
はなちゃん、歩いてみようか!

診察室を歩いてもらうと、左後ろ足が地面につく直前に浮いてしまい、
左後ろ足に体重をかけられていない様子でした。
検査 🐶

はなちゃんの歩き方や、ドロアー試験の結果から、
前十字靭帯を損傷している可能性が考えられます。
膝関節にぐらつきがないかを確認するため、
次にレントゲン検査を行いましょう。
レントゲン検査

レントゲン検査では、骨そのものに大きな異常はみられませんでした。
ただし、大腿骨と脛骨が接している部分が、わずかにずれて見えます。
このことから、前十字靭帯が傷んでいる可能性が考えられます。
はなちゃんの診断 🐶

『 前十字靭帯断裂の疑い 』

はな、骨折じゃなくて、靭帯だったのか〜💦

膝蓋骨脱臼があると、膝関節が不安定になり、前十字靭帯に負担がかかるため、前十字靭帯断裂を起こしやすくなることがあります。
🦴 前十字靭帯損傷とは?

前十字靭帯は、膝の中で太ももの骨とすねの骨を安定させる大切な靭帯です。
この靭帯が切れたり、傷んだりすると、膝がぐらついて痛みが出ます。
🐾 主な症状

- 後ろ足に 体重をかけられない
- 歩くときに 足を浮かせる・かばう
- 立ち上がりや階段を嫌がる
🩺 診断のポイント
- 歩き方の観察
- ドロアー試験(膝のぐらつきの確認)
- レントゲン検査で骨の位置や関節の変化を確認
💊 前十字靭帯損傷の治療について
前十字靭帯損傷の治療は、体重・年齢・生活スタイルを考えて決めます。
🐶 体重が軽い犬(目安:10kg未満)

- 安静・運動制限
- 痛み止めや消炎剤
- 体重管理

前十字靭帯断裂に対して手術を行わない治療を選ぶ場合、
切れた靭帯が元どおりに治るわけではありません。
時間をかけて関節のまわりに硬い組織(線維化)ができ、膝が安定してくるのを待つ治療になります。
そのため、跛行(足をかばう歩き方)が落ち着くまでに時間がかかり、数か月かかることもあります。

そのため、体重が軽いワンちゃんであっても、
運動量が多く活発な場合には、手術を選択することもあります。
🐕 体重が中〜大型犬(目安:10〜15kg以上)

- 膝への負担が大きいため、
→ 手術を検討することが多いです。

体重が重いワンちゃんほど、膝にかかる負担は大きく、回復にもより多くの時間が必要になります。

その結果、生活の質(QOL)の低下や筋肉量の減少が心配されるため、状況によっては手術が治療の選択肢にあがります。
🐾 高齢犬・持病がある場合

体重に関わらず、
→ 無理のない内科的治療を選ぶこともあります。
🌿 大切なこと
早めに対応することで、反対側の膝への負担や関節炎の進行を防ぐことにつながります。
はなちゃんの選択した治療 🐶


はなは15歳で高齢だし、普段はソファから動かないし、時間はかかっても手術はしないで、ゆっくり治していこうと思います。

はなちゃんには、確かにその方法が合っているかもしれませんね。
ただ、完全に落ち着くまでには数か月かかる可能性があります。
はなちゃんは少しぽっちゃり体型なので、膝への負担を減らすためにも、
無理のない範囲での 体重管理(ダイエット) を意識できるとよいですね。
あわせて、普段の生活では 床が滑りにくいように環境を整える ことも大切です。
🦴 前十字靭帯断裂の内科治療(手術をしない治療)

前十字靭帯断裂では、手術をせずに治療を行う選択もあります。
🌿 内科治療の考え方

- 切れた靭帯が 元に戻るわけではありません
- 時間をかけて、関節のまわりが固まり(線維化)、膝が安定するのを待つ治療です
🐾 主な治療内容
- 安静・運動制限
- 痛み止め・消炎剤

痛みが強い場合には、鎮痛剤を使用してつらさを和らげますが、
前十字靭帯断裂の治療で最も大切なのは安静にすることです。
⬇️ 体への負担が比較的少ないサプリメントを併用することもお勧めしています。🐶
- 体重管理(ダイエット)

運動を制限する必要があるため、体重管理は食事量の調整やおやつの見直しで行います。
⬇️ ダイエット用のフードを使用していても、
量をきちんと計測せずに与えてしまうと、体重が増えてしまうことがあります。
そのため、定期的な体重測定と、適切な給餌量の管理が大切です。⚠️
- 滑りにくい床など生活環境の見直し
⬇️ ソファ用のスロープなどを設置して、生活環境を整えてあげることもおすすめです🐾
⏳ 回復までの目安
- 跛行が落ち着くまでに 数週間〜数か月 かかることがあります
- 体重が重い、運動量が多い子ほど 時間がかかりやすい 傾向があります
✔ 向いているケース

- 体重が軽い
- 高齢で手術のリスクが高い
- 運動量が少ない
⚠ 注意点
- 関節炎が進行することがあります
- 反対側の膝を痛めることもあります
→ 定期的な再診が大切です
まとめ 🌼
前十字靭帯断裂の場合は、年齢や体重、生活環境、痛みの程度などをふまえて、
その子に合った治療を選択していきます。
きちんと診断ができれば、
回復に時間がかかる場合でも、経過を確認しながら
見通しを立てて、計画的に治療を進めることができます。
今回は、前十字靭帯を損傷してしまった15歳のはなちゃんの一例でした。
みなさまの参考になりましたら幸いです。

※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
日本獣医整形外科学会
「前十字靭帯断裂(犬)」
Fossum, T. W.
Small Animal Surgery, 5th ed.
Vasseur, P. B.
Stifle joint. In: Slatter’s Textbook of Small Animal Surgery
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