元気そうに見える猫ちゃんほど、「病院に行くきっかけ」が少ないかもしれません。
でも実は、猫は体調が悪くても、それを上手に隠してしまう動物です。
定期的なワクチン接種は、感染症予防だけでなく、体の小さな不調に気づくための大切な機会でもあります。
今回は、ワクチン接種で来てくれた猫のそらちゃんに、甲状腺機能亢進症が見つかった症例をご紹介します。
症例 🐱
猫のそらちゃん、10歳の男の子です。
毎年、混合ワクチン接種に来てくれます。

以下に、猫のワクチンの追加接種についての要点を簡潔にまとめた内容をご用意しました。
1. 追加接種の目的

初年度のワクチンで獲得した免疫を、確実に維持し、強く長く保つために行う接種。
とくに猫ウイルス性鼻気管炎・カリシウイルス・パルボウイルスなどの感染症を予防するうえで重要。
2. 接種タイミング

(A)子猫
- 初回:生後6〜8週
- 追加:その後、3〜4週間間隔で数回接種
- 最終:生後16週齢以降に最終接種
- その後:1年後に追加接種
(B)成猫
- その後は、1〜3年に1回の追加接種(ワクチンの種類・生活環境・リスクにより異なる)

ワクチンの接種頻度は猫の年齢・生活環境・健康状態によって異なるため、かかりつけの獣医師と相談して最適なプランを決めましょう。
3. 何を基準に「1年ごとか3年ごとか」が決まる?

- ワクチンの種類(3年有効のものもある)
- 完全室内飼いか、外に出る機会があるか
- 多頭飼育かどうか
- 年齢、基礎疾患の有無
→ 獣医師による問診・健康チェックで判断する。
4. 追加接種のメリット

- 感染症の予防効果の維持
- 病院での健康診断の機会にもなる(高齢猫の早期発見に有効)
- 定期的に体重・口腔内・心雑音・しこりなどのチェックができる
5. 注意点

- 接種後の「だるさ・食欲低下」は軽度で一過性の場合が多い
- まれにアレルギー反応(アナフィラキシー)が起こるため、接種後30分程度は病院で様子を見るのが望ましい
- 重度疾患(腎不全・心疾患等)や高齢では、接種頻度や種類を調整することがある


今日は混合ワクチンの追加接種ですね。そらちゃん、お変わりませんでしたか?

何にも変わらないよ!よく食べるしね!

ではワクチンの前に身体検査させていただきますね。
診察1: そらくん🐱、体重減少⤵︎
さて、本日は混合ワクチンの予定ですが、
空くんにとっては、年に一度のお出かけです。
せっかくなので、しっかり身体検査をします。
まず、体重を確認すると・・・


おととしが5.5kg、去年が5.3kg、今年が4.7kg。
体重が、徐々に落ちてきてますね。

よく食べてたけど、痩せてたのか。毎日見てると気が付かなかった!

吐いたり、下痢したりはないでしょうか?

下痢はしてないけど、吐くのは2、3日に1回くらいかな〜。
あんまり、空くんが吐くことを問題に思っていなかった様子です。
✅ 猫の嘔吐について 🐱

「猫は吐きやすいけれど、“吐いていい動物”ではない」

- 猫は胃の構造上、犬よりも吐きやすい動物だが、
「吐く=健康」では決してない。 - 毛玉・食べ過ぎなどの一時的な原因以外にも、
腎臓病、甲状腺機能亢進症、腸閉塞、膵炎、異物誤飲 など重大な病気が隠れていることもある。 - 月に何回も吐く、突然の激しい嘔吐、食欲低下を伴う、元気がない などは要注意。

週に1回以上の嘔吐が続く、月に2~3回でも習慣化している可能性があります。
「様子見で大丈夫」と判断せず、嘔吐が続く場合は早めの受診が安全です。
診察2: そらくん🐱、瞳孔散大と、心拍上昇。
さらに診察を進めると、


緊張の影響もありますが、瞳孔がいつもより大きく開いており、心拍数も基準より速くなっています。
そらくんのカルテを確認すると、去年までは、基準以内でした。
そらくんの心拍は、1分間に、240回を超えています。
(猫の心拍数は120〜220回くらい)
小さく、心音に雑音も混じっています。


そら、どこか悪いってことですか?!

その可能性もあるので、今日はワクチンの前に、血液検査をしてみましょうか。

そらくん🐱の診断 📝


血液検査の結果、甲状腺ホルモン(T4)の値が高値でした。
甲状腺機能亢進症の疑いがありますね。
【猫の甲状腺機能亢進症とは】🐱

■ どんな病気?

甲状腺ホルモン(T4)が過剰に分泌され、
体の代謝が必要以上に高くなってしまう病気。
中〜高齢の猫でとても多い内分泌疾患。
■ 主な原因
- ほとんどが 甲状腺の良性腫瘍(腺腫 / 腺腫様過形成)
- 悪性腫瘍(甲状腺癌)はごく少数
■ よく見られる症状

代謝が上がることで特徴的なサインが出る:
- 体重減少(食べているのに痩せる)
- よく食べる(多食)
- 嘔吐や下痢
- 落ち着きがない、夜鳴き、興奮気味
- 心拍数が高い、心雑音、心筋症
- 多飲多尿
- 毛づやの低下、被毛がボサボサ
- 高血圧による網膜剥離・失明リスク

「よく食べる」「興奮気味で落ち着きがない」といった様子は、一見元気に見えるため、病気だと気づかれにくいことがあります。
■ 診断方法

- 血液検査(T4) が基本
- 腎臓病と併発すると数値が隠れることがある
- 必要に応じて fT4、TSH、エコー、血圧測定など
■ 治療方法

以下の4つが主流になります。
1)内服薬(メルカゾール / チアマゾール)

- 最も一般的
- ホルモンの合成を抑える
- 副作用:嘔吐、肝障害、軽い貧血、皮膚の痒みなど

ホルモンの合成を抑える薬なので、やめてしまうと再び症状が出てしまいます。継続して服用することが大切です。
2)外科手術(甲状腺摘出)

- 再発リスクが低い
- 全身麻酔が必要なので、高齢猫は慎重に検討
3)食事療法🍽️
- ヨード制限食(Y/D)
単独で使うと効果が出ることがある - 他の食事と混ぜないのがポイント
⬇️ 甲状腺ホルモンの材料になる、ヨードを含まない療法食です。他の一般食や、おやつを少しでも口にしてしまうと、効果が期待できなくなります。🐱
4)放射性ヨード治療(I-131)
- 欧米では最も根治率が高い治療
- 日本も施設が増えてきている
■ 放置するとどうなる?

- 心臓に負担がかかって 甲状腺機能亢進症性心筋症
- 高血圧 → 網膜剥離・失明
- 重度の体重減少
- 最終的には命に関わる
■ 甲状腺機能亢進症、まとめ
- 中〜高齢猫でもっとも多い内分泌疾患
- **「食べているのに痩せる」「落ち着きがない」**は要注意
- 血液検査で診断可能、治療すればコントロールしやすい
- 腎臓病と併発しやすいので、治療は必ず獣医師と調整
そらくん🐱の治療

そらは甲状腺機能亢進症で、食べてても、痩せたり、吐いたりしてしまっていたのか・・・気づかなかったな〜。

混合ワクチンで定期的に動物病院に来てくれていたので、早く気づいてあげることができましたね!
今回の混合ワクチンは、延期して、治療を優先することにしました。

まずは1週間ほど甲状腺ホルモンを抑えるお薬を飲んでもらい、体調の変化や副作用がないかを確認します。

あわせて、心臓や腎臓に負担がかかっていないかもチェックしていきます。

嘔吐が落ち着いたり、体重が少しずつ増えてくれば、治療がうまくいっているサインです。

もしお薬を毎日飲ませるのが難しかったり、副作用がみられる場合は、食事療法や手術など、ほかの治療方法も選択肢になります。


内服の治療は、やめてしまうと甲状腺機能亢進症の症状が再び現れてしまいます。無理なく続けられそうか、まずはやってみましょう!

そらの病気がわかって、よかったです!お薬、頑張ってみような!
⬇️ 猫の投薬は、苦労することも多いです😿 おやつが好きな子なら、こういった製品を使ってみると、毎日の投薬が楽しくなります🐱
まとめ 🌻
猫は体調の変化を隠すことが多く、具合の悪さに気づきにくい動物です。
しかし、混合ワクチン接種などで定期的に動物病院を受診することで、思いがけず病気が見つかることもあります。
特に甲状腺機能亢進症は、食欲があり活動的に見えるため、元気だと勘違いして発見が遅れてしまうことが少なくありません。
高齢の猫ちゃんは、元気に見えても体調の変化が隠れていることがあるため、「元気だから大丈夫」と思わずに健康診断を受ける機会を作ってあげると安心です。
今回、ワクチン接種をきっかけに甲状腺機能亢進症が見つかったそらちゃんの一例が、皆さまの参考になれば幸いです。

※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
森 昭博. 「猫の甲状腺機能亢進症」. ペット栄養学会誌, 18(1), 49-51, 2015. CiNii Research
van Zuiden B., Santarelli G., Galac S., Kooistra H.S., Szatmári V. “Cardiac Abnormalities in Feline Hyperthyroidism.” Vet. Sci., 2025, 12(12), 1115. MDPI
Mata F., 等 “Hyperthyroidism in the Domestic Cat (Felis Catus): Informed Treatment Choice Based on Survival Analysis.” Macedonian Veterinary Review, 45(1), 2022.


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