「最近、咳をするようになったけど、元気はあるし様子見でいいかな?」
そんなふうに悩まれる飼い主さんは、実はとても多いです。
犬の咳は、喉や気管だけでなく、肺や心臓の病気が関係していることもあり、原因はさまざまです。
今回は、ガチョウが鳴くような特徴的な咳がきっかけで、気管虚脱が見つかった「ももちゃん」の一例をご紹介します。
同じような症状で悩んでいる方の参考になれば幸いです。
症例:シーズーのももちゃん 🐶
シーズーのももちゃん、12歳の女の子


最近、興奮した時や、散歩中に、咳をするようになりました。
とても苦しそうです。静かにしているときは大丈夫です。

ももちゃん、大変でしたね。診察してみましょう。
診察 🩺

喉まわり、気管、気管支(空気の通り道)、そして肺のどこで問題が起こっても、咳という反応が出ます。
今回の咳が、どこからくるのか?調べていきますね。

咳がどの場所(喉のあたりなのか、気管なのか、気管支や肺なのか)で起きているのかを見極めることは、
その子に合った 正しい治療につながる、とても大切なポイント です。
① 上部気道(喉まわり)

- 咽頭
- 喉頭
- 声帯
→ ケンネルコフ、喉頭炎、喉頭麻痺など
② 気管

→ 気管虚脱、気管炎
③ 下部気道
- 気管支
→ 気管支炎、慢性気管支炎、肺炎の初期など

心臓🫀が大きくなると、そのすぐそばにある気管や太い気管支を外から押してしまうことがあります。
その刺激で出る咳は、胸の奥のほう(下のほう)の気道から出る咳 に入ります。
④ 肺(肺実質)

→ 肺炎、肺水腫(心不全)、腫瘍

一言で「咳」と言っても、喉なのか、気管なのか、肺なのか…
実は、問題が起きる場所はいろいろあるのがポイントです。
🩺 コフテスト
獣医師が犬の首元(気管のあたり)をそっと触れて刺激し、咳が出るかどうかを確かめる検査です。
気管が弱っているときや、気管・気道に炎症があるときに参考になります。

ももちゃん、コフテストで咳が誘発されますね。
こんな感じの咳でしたか?

(🐶ガァッ、ガァッ、ガーッ)

そうそう、これこれ!
聴診(心音、肺)

聴診は、心臓の状態や肺・気道のコンディションを知るためのとても大切な検査です。

ももちゃんは、心臓に小さな雑音が聞こえます。
本来なら「トクッ、トクッ」と聞こえる心音が、少し混ざったように「ザッ、ザッ」と聞こえる状態です。

もも、心臓が悪いんですか?

咳は、気管のトラブルでも、心臓の病気でも起こることがあります。
必要な検査を行い、原因をひとつずつ確認しながら、しっかり見極めていきましょう。
検査 🐶
レントゲン検査

レントゲンは 「心臓が原因なのか」「肺・気管が原因なのか」 を見極めるのにとても有効です。
- 心臓が大きい → 心臓病由来の咳を疑う
- 肺に影がある → 肺炎・肺水腫・肺腫瘍など
- 気管がつぶれている → 気管虚脱
など、大まかな方向性を決めることができます。
気管の確認をするときは、息を吸った時、吐いた時で撮影します。

ももちゃんは、肺はきれいで、心臓の大きさも正常です。
ただ、息を吸った時に首の辺りの気管が、押しつぶされたように細くなってますね。
超音波検査(心臓)

心臓の超音波検査は、
「心臓がどう動いているか」
「どれだけ逆流しているか」
を詳しく調べるための、最も重要な検査です。

ももちゃんは、心臓の弁膜の一部に変性が見られ、軽度の血液の逆流が確認されました。
そのため、僧帽弁閉鎖不全症の可能性が疑われます。

血液検査

咳の原因に炎症が関わっていないかを調べるために、
白血球の変化 と CRP(炎症の指標) の値を確認します。
ももちゃんの診断 🐶

- 気管虚脱
- 僧帽弁閉鎖不全症(ACVIM分類では ステージB1 )

ももちゃんの心臓は、レントゲン検査で心拡大は見られず、
超音波検査でも血流の異常は軽度でした。
ACVIM分類では ステージB1 にあたります。
この段階では、まだ、咳などの症状は出ないですし、お薬などの治療は必要ありません。
⬇️ 僧帽弁閉鎖不全症についてはこちらも参考にしてください🐶

では、ももの咳の原因は・・・?

血液検査でも、白血球数やCRPなど、炎症の数値の上昇はありませんでした🩸
特徴的な咳の仕方からも、『気管虚脱』の可能性が高いと思います。
🐶 気管虚脱とは?

気管(息の通り道)が押しつぶされて細くなってしまう病気です。
小型犬に多く、興奮したときや散歩中に「ガーガー」「ブーブー」とガチョウのような咳が出るのが特徴です。

🔍 主な症状
- ガチョウの鳴き声のような咳(ガーガー)
- 興奮・運動・首輪を引っ張った時に咳が悪化
- 呼吸が苦しそう、ゼーゼーする
- 酷くなると、チアノーゼ、失神することも
🐾 なりやすい犬種

- ポメラニアン
- チワワ
- ヨークシャーテリア
- トイ・プードル
- パグ、フレンチブル、シーズーなど短頭種
🧪 診断方法
- 聴診(呼吸音の変化)🩺
- レントゲン検査(気管がつぶれていないか)
- 内視鏡検査(重症例)

「ガチョウの鳴き声のような咳」 と表現されるように、咳の出方に特徴があるため、咳をしているときの様子を動画📱があると、診断の大きな助けになります。
💊 治療の基本
症状の程度により治療方法が異なります。
軽度

- 興奮させない
- 首輪 → ハーネスに変更
- 肥満の改善
- 咳止め薬の使用

お散歩のときに首輪を使っていると、リードを引っ張った際の刺激で、咳が出やすくなることがあります。
中等度〜重度

- 気管を拡げる薬
- 抗炎症薬
- 酸素ケージ
- それでも改善しない場合は外科手術(ステントなど)

多くのケースでは内服薬や生活管理で改善が見られますが、進行が強い場合は、外科治療を含めた専門的治療が選択肢となることがあります。
🌱 日常で気をつけること
- 首輪で引っ張らない(ハーネス推奨)
- 太らせない
- 暑さに注意
- 興奮させすぎない
- 咳が増えたら早めに受診

気管虚脱の治療は、弱くなった気管を元どおりに治すというより、
症状をコントロールしながら上手に付き合っていく治療になります。
咳や呼吸のつらさで 生活の質(QOL)が下がらないように、注意しながら進めていくことが大切です。
⬇️ 特に、気管を避けた設計を意識したハーネスもあります。 🐶
⬇️ 適切な体重コントロールは、安定した呼吸を維持することにつながり重要です。🐶
ももちゃんの治療 🌼


まずは 1週間ほど、ステロイドや咳止めのお薬を使って、咳が出にくい状態を保ちましょう。
しばらくは激しい運動や興奮を控え、首輪を使っている場合は ハーネスへの変更 をおすすめします。

わかりました。悪化させないように、ハーネスにして、少しダイエットもした方が良さそうですね。

その通りです!
そして、咳が落ち着いていたとしても、ももちゃんには 初期の僧帽弁閉鎖不全症 もあります。
心臓の状態を確認するために、まずは 1か月ほどを目安に再診 にいらしてくださいね。
まとめ 🌼
犬が咳をする原因は、喉・気管・気管支・肺・心臓など、さまざまです。
気管虚脱では ガチョウが鳴くような大きな咳 が特徴的ですが、そのほかにも咳の出方によって、原因のヒントが得られることがあります。そのため、咳をしているときの様子を動画で撮っていただくことも、診断の助けになります。
また、心臓の病気は日常生活の中では気づきにくいことが多く、咳が最初のサインになることもあります。
もしワンちゃんが咳をしていたら、早めに動物病院を受診することをおすすめします。
今回ご紹介した、咳の原因が気管虚脱だった「ももちゃん」の一例が、みなさまの参考になりましたら幸いです。

※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
日本獣医循環器学会 編
『犬と猫の循環器診療ガイド』
Fossum, T. W.
Small Animal Surgery, 5th ed.
Nelson, R. W., Couto, C. G.
Small Animal Internal Medicine, 6th ed.


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