多飲多尿で来院したこてつくんの症例|IRIS分類でわかる犬の腎臓病ステージと治療法

多飲多尿

犬がいつもより水をよく飲む、尿の量が増えた――
そんな変化は、腎臓病を含むさまざまな病気のサインかもしれません。
とくに慢性腎臓病は、気づきにくいまま進行することがあるため注意が必要です。

腎臓病の重症度を判断する基準として使われているのが「IRIS分類」。
この記事では、
・犬が多飲多尿になる主な原因
・IRIS分類の見方
・ステージごとの治療のポイント
を、多飲多尿で来院した雑種犬の虎徹くんの例を挙げて、
獣医師の視点から分かりやすく解説します。

症例

13歳、雑種、虎徹くん。甲状腺機能低下症で治療中。
今日は再診がてら、相談があるとのこと。

お母さん
お母さん

暑くなってから、ガブガブとものすごく水を飲みます。
おしっこも家の中でしないので夜中に鳴いて起こすんですよ・・
間に合わないこともあります。

元気も食欲もあるんですけどね〜

多飲多尿について

私(獣医)
私(獣医)

大体で良いのですが、1日にどのくらい飲んでいるかわかりますか?

お母さん
お母さん

500mlちょい入る水皿があっという間になくなるのでおかわりして、
散歩中にも飲んでるから・・・3L近くは飲んでます。

虎徹くんは、体重20kgくらいなので、1日の飲水量の基準量は、1Lくらいです。
3L位は明らかに、多飲です。

✅ 犬・猫の「多飲多尿」の基準

犬・猫の飲水量は、個体差・季節・食事(ドライかウェットか)などでも変動します。
以下の飲水量の基準と合わせて、本当に異常な多飲なのか?考えます。

種類多飲の基準(1日の飲水量)正常な飲水量
🐶体重1kgあたり 100mL以上体重1kgあたり50〜60ml
🐱体重1kgあたり 45mL以上体重1kgあたり 40〜50mL

⚠️数日〜1週間以上、多飲が続く場合は病気のサインです。

多飲多尿の原因

多飲多尿の原因は、以下のように、とってもたくさんあります!
病的なのか、病的でないのか(気温、環境の変化やストレスなど)?
がとても大切です。

カテゴリー主な病名・原因補足
代謝性糖尿病・高カルシウム血症血糖/カルシウムの上昇で尿量増加
腎臓慢性腎臓病・腎性尿崩症腎臓で尿を濃縮できない
内分泌クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)・中枢性尿崩症ホルモン異常で尿量が増える
感染症子宮蓄膿症・腎盂腎炎発熱や炎症性で多飲に
肝臓肝不全・門脈体循環シャント代謝異常で多飲多尿になる
薬剤性ステロイド・利尿剤利尿作用のある薬による
その他心理性多飲症環境・ストレスが原因になる

検査:多飲多尿の原因は?

尿検査

私(獣医)
私(獣医)

多飲多尿の鑑別には尿検査が不可欠です。
尿比重・尿糖・尿タンパク・沈渣などから、
腎臓病、糖尿病、尿崩症、膀胱炎、ホルモン異常などの原因を、絞ることができるためです。

  • 尿糖(ー) 
    ➡️ 糖尿病は否定的
  • 炎症細胞・細菌(ー) 
    ➡️ 腎炎・膀胱炎は否定的 
  • 尿比重:低下↓ 
    ➡️ 多飲による希釈尿、あるいは腎機能低下

尿比重(尿の濃さ)は、気温や飲水量によって日々変動します。
しかし、低い尿比重が続く場合は、腎臓が尿を十分に濃くする力(濃縮力)が低下している可能性があります。
濃縮力が落ちると体内に水分を保持しにくくなり、その結果として多飲が起きたり、脱水が進みやすくなったりします。

血液検査🩸

血液検査も、多飲多尿の原因を大きく絞り込むために重要な検査です。

BUN36mg/dL(7〜27 mg/dL)
クレアチニン:1.4mg/dL(0.5〜1.4 mg/dL)
SDMA20mg/dL(0〜14 µg/dL)
※( )内は正常値

腎機能の評価項目が、それぞれ基準値の上限のぎりぎりか、少し上回っていました。
その他の項目に異常はありませんでした。

超音波検査

血液検査や尿検査で異常が見つかった場合、超音波検査で臓器の形態的異常を確認することで、
多飲多尿の原因を特定しやすくなります。

私(獣医)
私(獣医)

これまでの検査で、尿比重の低下や、血液検査で腎臓の数値がやや高かったことから、腎臓の確認を目的に超音波検査を行います。

虎徹ちゃんの腎臓には、萎縮や腫大、腎結石などの明らかな異常は見つかりませんでした。
しかし、尿量が増えているため、腎臓の中心にある腎盂がわずかに拡張し、
腎臓の構造がやや不明瞭になっていました。

結果:初期の腎機能低下

【 初期の腎機能低下 】

私(獣医)
私(獣医)

以上の検査から、虎徹ちゃんは、初期の腎機能低下の可能性があります。
IRIS(アイリス)のステージは1〜2ですが、多飲多尿が顕著なので、本人も少し辛い状況だと思います。治療を検討してみましょうか。

犬の腎障害について

IRIS(International Renal Interest Society、アイリス)分類 は、
慢性腎臓病(CKD)の重症度を客観的に評価するための国際基準です。

🐶 腎臓病のIRIS分類

IRISステージクレアチニン (mg/dL)SDMA (µg/dL)特徴
ステージ1<1.4<18軽度の腎機能低下、尿比重低下など
ステージ21.4〜2.818〜35食欲低下、体重減少が出始める
ステージ32.9〜5.036〜54嘔吐、食欲低下、多飲多尿
ステージ4>5.0>54重度の腎不全、尿毒症状

🐶 CKD(慢性腎臓病)IRISステージごとの治療の目安

IRISのステージを目安に、治療を検討していきます。✏️

ステージ治療・管理のポイント
ステージ1食欲管理・生活習慣の改善(運動・水分管理)
ステージ2腎臓療法食の導入・血圧管理
ステージ3ステージ2の管理に加え・貧血治療・リン制限、リン吸着剤の使用
ステージ4・ステージ3の管理に加え・輸液療法による脱水補正・腎臓療法食+補助栄養

🔍 治療のポイント

  • 早期ステージほど 生活管理や食事療法が中心になります。
  • 進行ステージほど 薬物療法・輸液・合併症管理が重要です。
  • 定期的な血液・尿検査で ステージの進行を把握 することが治療の基本になります。

治療:腎臓の療法食からスタート

腎臓の療法食の特徴🍽️

腎臓の療法食は、いろいろなメーカーが製造しています。
主に以下のような特徴があり、腎臓の障害の進行を遅らせたり、症状を緩和させたりします。

1. タンパク質の調整

  • 腎臓に負担をかけない 高品質・適量のタンパク質
  • 老廃物(尿素・クレアチニン)の生成を抑える

2. リンの制限

  • 腎機能が低下するとリンが体内に蓄積しやすい
  • リンの量を調整することで、腎不全の進行を遅らせる

3. エネルギーの調整

  • タンパク質が制限されても十分なカロリーを確保
  • 食欲低下時でも必要な栄養を摂取しやすい

🐶動物病院でも紹介している、腎臓の療法食の例です。⬇️

その後・・・

虎徹ちゃんは、食事療法から始めて、多飲多尿の症状が落ちついてきたとのこと。

お母さん
お母さん

腎臓の療法食にしてから、飲水量は1日に1Lくらいに落ち着きました。
おしっこも量が減って、夜中におしっこに起こされることがなくなりました。

私(獣医)
私(獣医)

よかったです!
このまま、元気・食欲などに問題なければ、食事の療法食を続けて、
3ヶ月くらいで定期検診で血液検査や尿検査にいらしてください!

まとめ

犬の多飲多尿は、原因がかなりたくさんあります。
環境の変化(新しい犬がお家に来た、大好きなお母さんが不在だったなども)や、運動量、気温、ご飯の変更も、多飲多尿の原因になります。
しかし、今回の腎機能低下の他、膀胱炎、糖尿病、クッシング症候群、悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症など・・・怖い病気が隠れている可能性もあります。

腎臓の機能低下の初期症状は、多飲多尿がみられることがあります。
治療はIRIS(アイリス)分類に基づきステージに応じて提案してきます。

初期であれば、腎臓の療法食が病気を遅らせるのに有効です。

もし、犬に多飲多尿が見られたら、だいたい、どのくらい飲んでいるのか確認して、できれば尿を持参して、動物病院に相談してみてくださいね!

今回の、多飲多尿の虎徹くんの1例、参考にしていただけましたら幸いです。

※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。

参考文献

  1. IRIS. IRIS Staging of Chronic Kidney Disease. International Renal Interest Society.
  2. Ettinger SJ, Feldman EC, Côté E. Textbook of Veterinary Internal Medicine. Elsevier.
  3. Polzin DJ. Chronic Kidney Disease in Dogs and Cats. Vet Clin North Am Small Anim Pract.

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