犬の外耳炎での来院は、とても多いです。
頭を振ったり、擦ったり・・・
ひどいと頭が傾いてしまう子もいます。
また、怒って、ご家族に触らせてくれなくなることも。
今回は、外耳炎で来院した柴犬のトミーくんの例を通して、外耳炎の原因や自宅でできるケアについてまとめました。
症例:柴犬のトミーくん
今日やってきたのは、柴犬のトミーくん、5歳の男の子。

数日前から頭を振ったり、右耳を擦り付けたり。
すっぱい臭いもする、とのこと。

耳が痛いせいか、怒って触らせてくれません。
トミーくん、耳を触ろうとすると、ウーーッ💢と、歯を剥き出して怒って、ご家族には見せてくれないとのこと。
診察室でも、ブルブル震えて、頭を触ろうとすると、ガウッ💢、触るなっ💢といっています。
診察
トミーくんには申し訳ないですが、診察前にそおっと口輪をつけていただきました。
よくみると、少し頭が右に傾いています。
耳介、耳道が腫れて、耳の穴が狭くなっています。
黄色っぽい耳垢がたくさんついています。

右耳が強い炎症を起こして、平衡感覚に影響が出ているようです。
今、触ると痛みが強く動物病院がトラウマになってしまうので💦
洗浄は今日はせずに、耳垢だけ採取して検査します。
耳垢の検査

耳垢を顕微鏡で確認します。
主に原因になる、
マラセチア(真菌の一種)、細菌、耳ダニ
のどれかが見えてきます。
| 耳垢から検出されるもの | 内容 |
|---|---|
| マラセチア(真菌)感染 | 酵母菌の一種が耳の中で増え、かゆみや独特の酸っぱいにおいを引き起こします。 アレルギーに関連することもあります。 |
| 細菌感染 | 耳の中で細菌が増えることで炎症が起こります。 |
| 耳ダニ(ミミヒゼンダニ) | 寄生虫が耳の中に住みつき、激しいかゆみと黒っぽい耳垢が出ます。ほかの動物にうつることもあります。 |
トミーくんの耳垢からは、
マラセチア、という、酵母菌の一種が検出されました。
マラセチアについて
- 外耳炎の原因では最も多いです。
- 普通に犬の全身にいる常在の真菌(カビの仲間)で、普段は悪さをしません。
- 湿気や皮脂、アレルギーなどで皮膚のバランスが崩れると増えすぎて炎症を起こします。

アレルギー性皮膚炎としての外耳炎
食物や環境アレルギーが、耳にも炎症を起こしている場合があります。
耳だけでなく、肉球の間や口・目の周りの皮膚などにも炎症がないか、確認します。
その場合は、全身ケアが必要になります。
アレルギー性皮膚炎に関する記事はこちら⬇️


トミーくんは、耳以外に皮膚の症状はないようでした。
治療
外耳炎の治療では、点耳薬(抗菌薬、抗真菌薬、ステロイドの合剤)を使用することが多いです。

今回は、耳の痛みが非常に強いので、無理に耳には触らないようにして、
1週間、飲み薬で治療しましょう。
と言うわけで、飲み薬の痛み止めにステロイドと、抗菌薬を使用して、
強い炎症と痛みを抑えてから洗浄することにしました。
1週間後・・・

トミーくん、頭の傾きがすっかり治りました。
耳を触っても怒らなくなりました!

よかったです!では、今日は耳の洗浄を行います。
飲み薬は終了して、点耳薬をお出ししますね!
1日2回、2週間くらい続けてください。
ちなみに、それでも点耳ができないという子のために、自宅で点耳をしなくても良い方法もあります。
長期で効くジェル状の薬を、1週間おきに2回、動物病院で耳に注入します。
関連記事はこちら⬇️
そしてさらに2週間後。トミーくんの耳の炎症はすっかり落ち着き、治療は終了になりました。
痛い外耳炎、治ってよかったね、トミーくん!

自宅でのケアについて
外耳炎は繰りしに悩む子も多いです。
原因は、アレルギー体質、耳の構造(垂れ耳・耳道が狭い)などが挙げられます。
基本的に耳掃除は必要なく、正常な耳であれば汚れは溜まることがないのですが、
外耳炎を繰り返す子は適切な洗浄が効果的です。
🏡 自宅でできる犬の耳掃除の方法
① 準備するもの
- 犬用のイヤークリーナー(アルコール不使用のもの)
- コットン or ガーゼ
※綿棒は奥に押し込みやすいので基本使わない
② 掃除の手順
- 耳を軽くめくって中を確認
赤み・腫れ・悪臭があれば無理せず病院へ。 - イヤークリーナーを耳の入口から入れる
直接入れるタイプなら 耳道が満たされる量(通常数滴〜数 mL)。 - 耳のつけ根を優しくもむ
肩の付け根に近い部分を「クチュクチュ」と数回優しくマッサージする。
→ 汚れを浮かせる工程。 - 犬にブルブルしてもらう
浮いた汚れが外に出る。室外でやるのがおすすめです。 - 出てきた汚れをコットンで拭き取る
見える範囲だけでOK。奥には入れない。
③ 頻度
- 通常:1〜2週間に1回
- 外耳炎になりやすい犬:獣医師の指示に従う(毎日〜週数回など)
④ やってはいけないこと
- 綿棒を奥まで入れる
- アルコール入りや刺激のある液を使う
- 汚れが多いのに何度もゴシゴシする
- 匂いが強い・痛がるのに続ける(悪化のサイン)
🐶犬用イヤークリーナーの例です⬇️
痛がったり、汚れがひどい時は治療が必要です。
動物病院で治療を相談してくださいね!
まとめ
犬の外耳炎はとてもよくみられる疾患です。
動物病院では、外耳炎の原因は何か?を探って検査します。
また、犬が痛がったり、怖がったりする場合も多く、その子に合わせて治療方法を検討します。
繰り返すことも多いので、アレルギーの対策や、耳の洗浄など提案させていただきます。
外耳炎のトミーくんの一例、参考にしていただけましたら幸いです!



参考文献
Bajwa, J. (2019). Canine otitis externa — Treatment and complications. Canadian Veterinary Journal, 60(1), 97-99. 『犬の外耳炎 — 治療と合併症』。 PMC
Nuttall, T. (2023). Managing recurrent otitis externa in dogs. Journal of the American Veterinary Medical Association, 261(S1). 『犬における再発性外耳炎の管理』。 AVMA Journals
Song, Y. et al. (2025). Therapeutic and Formulation Innovations in the Treatment of Canine Otitis Externa. Pharmaceutics, 17(10), 1332. 『犬の外耳炎治療における治療・製剤イノベーション』。
※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。

コメントやご相談も、お待ちしています。

