「最近、散歩に行きたがらない」「立ち上がるときにふらつく」「腰が曲がってきた気がする」
そんな変化を見て、「年のせいかな」と思っていませんか?
高齢犬では、加齢による筋力低下だけでなく、変形性関節症や椎間板のトラブルなど、“痛み”が隠れていることがあります。
今回は、腰の痛みが疑われた高齢犬ケンタくんの診察例をもとに、高齢犬の足腰の不調で気をつけたいポイントや、治療・生活上の工夫についてお話しします。
症例 🐾
13歳、雑種犬、ケンタくん。

甲状腺機能低下症で治療中で、今日は再診に来てくれました。

今日は、いつもの追加のお薬をいただきに来ました。

ケンタくん、久しぶりですね。元気、食欲は問題ありませんでしたか?

食欲はあるんですが、最近、動き出すときにふらついたり、あまり歩きたがらなくなってきました。
もう年ですし、仕方ないのかな…と思っていて。
診察 🐾

ケンタくんの身体検査では、加齢に伴う足腰の変化を示唆する所見がいくつか確認されました。
🐶 ケンタくんの身体検査所見
- 腰がやや下がり、背中が少し丸くなった姿勢が見られる
- 後ろ足のつき方がやや内側(お腹側)に寄っている
- 太ももの筋肉が痩せている
- 腰のあたりを触診すると、ガクッと腰が落ちるような反応があり、嫌そうに振り向く様子が見られる
- 姿勢反射はやや低下しており、後ろ足の甲を診察台につけると、元の姿勢に戻るまでに少し時間がかかる


ケンタくんは、腰に違和感や痛みを感じている可能性があり、
それに伴って、後ろ足の動きが少し鈍くなっている様子も見られます。

腰が痛かったんですね💦
やはり、年だから仕方がないんでしょうか?

加齢による変化も関係している可能性はありますが、念のため、レントゲン検査をして状態を確認してみましょうか。
検査 🐾
レントゲン検査

高齢犬で腰の痛みが疑われる場合、レントゲン検査は原因を探るための基本的な検査です。

- 背骨や関節の変形(変形性関節症)
- 椎間板の変化や幅が狭くなっていないか
- 骨折や腫瘍などの骨の異常
といった 骨や関節の変化 を確認することができます。
一方で、神経や椎間板そのもの、筋肉の状態 までは詳しく分からないため、
症状によっては他の検査(CT、MRIなど)を検討することもあります。


まずはレントゲン検査で全体の状態を把握し、
年齢による変化なのか、治療が必要な病気が隠れていないかを確認することが大切です。
ケンタくんの診断 🐾
【 変形性関節症
(椎間板ヘルニア、馬尾〈ばび〉症候群の併発の可能性あり) 】


背骨のふちに、トゲのような骨の増生(骨棘〈こつきょく〉)が見られ、
また、背骨と背骨の間隔がやや狭くなっており、椎間板の変性が疑われます。
これらは、変形性関節症(変形性脊椎症)にみられる所見です。
なお、このような変化がある場合、
椎間板ヘルニアや馬尾(ばび)症候群を同時に伴っている可能性もありますが、
これらはレントゲン検査だけで確定することはできません。

一方で、今回のレントゲン検査では、
腫瘍や強い感染症を疑うような骨の変形は認められませんでした。

なるほど…それでケンタは痛みがあって、歩きづらそうにしていたんですね。
年のせいだから仕方ないと思っていました…。
高齢犬で足腰が痛いときに見られる症状 🐶

歩き方・動きの変化 🐕
- 歩くのを嫌がる、途中で立ち止まる
- 歩くスピードが遅くなる
- 動き出しがつらそう(特に起き上がり)
- 立ち上がりにくい、時間がかかる
姿勢の変化

- 腰が下がる、背中が丸くなる
- 後ろ足が開いてくる(踏ん張れない)
- 後ろ足がクロスする
- ふらつく、バランスを崩しやすい
室内での変化 🏠
- フローリングで滑りやすい
- カーペットや芝生では比較的歩きやすい
- 段差や階段を嫌がる
- ソファやベッドに乗らなくなる
行動・性格の変化

- 動かず寝ている時間が増える
- 抱っこや体を触られるのを嫌がる
- 以前より元気がないように見える
- 夜中に落ち着かず動く(痛みのサインのことも)

「年のせい」と思われがちだが、痛みのサインのことが多いです。
適切な治療や環境調整で、生活の質は大きく改善することがあります。
高齢犬で足腰が痛くなる主な原因 🐶

① 変形性関節症(関節炎)
- 股関節、膝、背骨の関節に起こりやすい
- 痛みを避けるため、背中を丸めた姿勢をとる
- 歩くのがゆっくりになる、立ち上がりにくい

加齢や慢性的な負担によって起こる、最もよくある原因の一つです。
治療は痛みのコントロールが中心になります。
② 椎間板疾患(椎間板ヘルニア・慢性変性)

- 背骨の間のクッション(椎間板)が変性
- 強い痛みがあると、背中を丸めて動かなくなる
- 急性だけでなく、慢性に進行するタイプもある
👉 高齢犬では「はっきり麻痺が出ないタイプ」も多い
⬇️ 椎間板ヘルニアについてはこちらも参考にしてください 🐶
③ 馬尾症候群(腰仙部狭窄症)

- 腰の一番後ろ(腰椎〜仙椎)で神経が圧迫される
- お尻〜後肢の痛み・ふらつき
- 腰を反らせにくくなり、常に丸めた姿勢になる
👉 大型犬・高齢犬で多い
▶ 多くの高齢犬では・・・

①〜③(関節・椎間板・神経の痛みや障害)
↓
動かなくなる・使わなくなる
↓
筋力低下が進行する

という変化が起こることが多いです。
- 痛い → 動かない
- 動かない → 筋肉が落ちる
- 筋肉が落ちる → 姿勢が保てず腰が曲がる
この悪循環が、高齢犬ではよく見られます。

筋肉が落ちて腰が曲がっているように見えますが、
その背景に、関節や背骨の痛みが隠れていることが多いです。
④ そのほかの原因

- 内臓の痛み
膵炎、腎臓・前立腺疾患など - 腫瘍
骨、他の部位からの骨への転移など

高齢の犬では、思わぬ病気が隠れていることもあります。
関節の問題だけでなく、内臓の痛みや腫瘍などが原因で、背中を丸める姿勢が見られることもあります。
受診を考えた方がいいサイン🏥

- 腰が曲がってきた
- 歩きたがらない/立ち上がりにくい
- 抱っこを嫌がる、触ると怒る
- 後ろ足がふらつく、力が弱い

「年のせいかな」と思ってしまいがちですが、
動物病院で痛みの原因や、ほかの病気が隠れていないかを確認することが大切です。
治療 🐾 高齢犬の足腰の痛みに使う薬💊
痛みや不調をできるだけ和らげ、日常生活の質を保つことが目的になります。
副作用に十分配慮しながら、その子の状態に合わせて、長く続けられる治療を検討していきます。

① NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)💊

- 炎症と痛みを抑える
- ⚠️ 胃腸障害・腎臓への影響が出ることがあるため、注意が必要
- 基本的に1日1回飲む薬や、2週〜月1回など長期で効く薬もあります。

NSAIDsは、人でいうロキソニンなどと同じ種類のお薬ですが、
⚠️人用の痛み止めを犬に使うと、重篤な副作用が出ることがあります。
必ず獣医師が処方した犬用の薬を使用してください。
② 鎮痛補助薬(神経・慢性痛向け)

NSAIDsだけで不十分な場合に併用します。
- 神経痛や慢性的な痛みに使用
- 眠気が出ることがある
👉 関節だけでなく、神経の関与が疑われる場合にも使われます。
③ 注射薬(持続型鎮痛)

- 1回の注射で効果が数週間続くタイプも
- 内服が難しい犬に向いています
※ 症例により適応が限られます。
④ サプリメント

- 関節の健康維持を目的
- 一般的に副作用は少なく、日常的に使いやすい
⬇️ 動物病院でも紹介されているサプリメントです。
高齢犬や腎機能が低下している子でも比較的使いやすく、日常的なケアとしておすすめされることが多いものです。
大切なポイント☝️
- 痛み止めは症状や年齢、持病に合わせて選択します
- 「ずっと同じ薬」ではなく、調整しながら使うことが多いです
- 痛みを我慢させないことが、筋力低下の予防にもつながります

気をつけたいこと 🐾


ケンタ、お散歩はどうしたらいいかしら。あまり行かない方がいいでしょうか?

痛みが強い時は無理をせず安静を心がけ、
症状が落ち着いている時には、完全に動かさないのではなく、
体の状態に合わせた適度な運動を取り入れることが大切です。

痛みが強い時 🔥

- 基本は安静(散歩は休む、短時間のトイレのみ)
- 痛み止めを利用する
- 段差・ジャンプ・階段はできるだけ避ける
👉「動かさないこと」よりも
**「痛みを悪化させないこと」**が大切です。
痛みが落ち着いている時 ☀️

- 無理のない範囲で平坦な道を短時間の散歩
- 急な方向転換やダッシュは避ける
- 調子が悪そうな日は無理しない
👉 完全に動かさないと、
**筋力低下** が進んでしまいます。
⬇️ 腰につけるハーネスは、立ち上がりにくい子や後ろ足が不安定な子の
お散歩の補助として、とても役立ちます。🐶
室内環境の工夫 🏠

- フローリングは滑り止めマットを敷く
- ソファなどはスロープをつける
- 寝床は立ち上がりやすい高さ・硬さに
⬇️ 筋力が落ちてくると、踏ん張りがききにくくなり、
フローリングなどで滑ってしまうことがあります。
床環境を工夫することで、転倒予防や生活の質の向上につながります。🐶
治療:ケンタくんの場合 🐾


まずは痛み止めを1週間ほど使ってみて、立ち上がりや歩き方に変化が出るか確認してみましょう。
そのうえで、日常的なケアとしてサプリメントを併用するのも一つの方法です。


ケンタは散歩が大好きですが、無理をさせすぎないことが大切ですね。
道はなるべく平坦で、足腰への負担が少ない場所を選んで、体調に合わせていこうと思います。

痛みを完全になくすのではなく、できるだけ痛みを少なくしてあげることで、より快適に生活できるようサポートしてあげたいですね。
まとめ 🌼
高齢犬では、年齢とともに腰が曲がってきたり、立ち上がりにふらついたり、フローリングなどで滑りやすくなるなど、痛みや筋力低下によって日常生活に支障が出てくることがあります。
その背景には、変形性関節症や椎間板ヘルニアが隠れていることが多い一方で、内臓の病気や腫瘍など、別の原因が関与している場合もあるため、「年のせい」と決めつけず、動物病院で診察を受けることが大切です。

日常生活では、痛みが強い時には安静や痛み止めによる治療が必要ですが、状態が落ち着いている時には、無理のない範囲で体を動かすことが、気分転換や筋力の維持につながります。
また、滑りにくい床にするなど生活環境を整えることで、痛みを軽減し、より快適に過ごせるようサポートしてあげることも重要です。
高齢で腰の痛みを抱えるケンタくんの一例が、同じようなお悩みを持つ飼い主さんの参考になれば幸いです。



※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
日本獣医師会雑誌
高齢犬における変形性関節症・運動器疾患の診断と管理
(日本獣医師会雑誌/総説・症例報告)
獣医内科学アカデミー編
『犬と猫の内科学 第3版』
運動器疾患(変形性関節症、椎間板疾患、神経疾患)の章
(文永堂出版)
Merck Veterinary Manual(日本語版)
犬の変形性関節症、椎間板疾患、慢性疼痛管理
(オンライン獣医マニュアル)
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