「抱っこしようとしたらキャン!」診察室で気づいた犬の腰のSOS

破行

抱っこした瞬間に「キャン!」と鳴いてしまったダックスフントのチョコちゃん。
犬は痛みの場所を言葉で伝えることができないため、腰だけでなく、お腹・関節・皮膚などさまざまな原因を考える必要があります。

この記事では、チョコちゃんの症例を通して、犬が腰を痛がるときに考えたい鑑別診断椎間板ヘルニアの主な症状発症しやすい犬種の特徴、そして自宅で注意すべきポイントまで、飼い主さんが知っておきたい内容をわかりやすくまとめました。

愛犬が突然痛がったり、抱っこを嫌がるようになったときの参考にしていただければ幸いです。

症例:抱っこでキャン!ミニチュアダックスフントの男の子

チョコちゃん、4歳のミニチュアダックスフントの男の子。

昨日から、震えていて、いつもの元気がないとのこと。

お父さん
お父さん

抱っこしようとすると、キャン!と鳴くんです。
抱き上げようと触った時だから、脇が痛いのかな?胸の辺りに何かあるのかな?

診察

私(獣医)
私(獣医)

抱っこしようとしてキャン!は、脇など触ったところが痛いとは限りません。

抱っこされることで姿勢が変わるから痛い!や、
抱っこされると痛くなるかもしれないから嫌だ!という

特に、首や、腰の痛みの時にみられることが多いようです。

診察台のチョコちゃんの姿勢は少し猫背で、背中が丸くなっています。
全身を注意深く触っていくと、背中の腰のあたりを押さえるとキャン!と振り返ります。

チョコは腰が痛かったのか!?
触ったところ、脇か胸ではなかったんですね!

◆ 犬の『腰痛』で考えたい主な鑑別疾患

私(獣医)
私(獣医)

確かに、腰の周辺に問題がありそうです。
しかし、まだ注意したい鑑別がたくさんあります!

【1】脊椎・脊髄の病気

  • 椎間板ヘルニア(腰部・胸腰部)
  • 脊椎の変形やすべり(変性性脊椎症、脊椎すべり症)
  • 腫瘍(髄膜腫・神経鞘腫など)
  • 椎間板脊椎炎(椎間板の感染が原因)
私(獣医)
私(獣医)

椎間板ヘルニア以外にも、脊椎の病気があることに注意です。


【2】筋肉・関節の問題

  • 筋肉の損傷・炎症(筋膜炎など)
  • 膝や股関節の疾患

【3】内臓の痛みが「腰痛」に見える場合

腰のあたりを触ると痛がるが、実際は内臓が原因のことも。

  • 膀胱炎・尿路結石
  • 前立腺炎♂
  • 子宮蓄膿症
  • 消化器病(胃腸炎・腸閉塞)
私(獣医)
私(獣医)

腎臓はちょうど、腰の辺りにあるので、腎結石や腎炎の痛みは要注意です!


【4】皮膚・外傷

  • 皮膚炎(痛がって触られるのを嫌がる)
  • 尾根部の外傷
  • 咬傷・打撲
私(獣医)
私(獣医)

咬まれた傷や、ワクチンなどの注射💉の痕が痛いこともあります。

検査

私(獣医)
私(獣医)

身体検査の結果、チョコちゃんの痛みは皮膚や、お腹の中ではないようです。

ダックスフントという犬種や、症状からも椎間板ヘルニアの可能性が高いと思います。
今回は、まずレントゲン検査をしてみましょう。

レントゲン検査

大事な点として、椎間板ヘルニアをレントゲン検査で診断するのは難しいです。

椎間板が飛び出して脊髄を圧迫している様子は、X線では見えません。

しかし、治療方針の選択に関する情報が得られる可能性があります。

たとえば…

  • 石灰化が多い → 今後の発症リスクも高い
  • 骨折・腫瘍の疑い → 外科か精密検査が必要
  • 明らかに別の原因がある → 椎間板ヘルニア治療では改善しない

このように、次に何をすべきかの方向性を決める材料になります。

私(獣医)
私(獣医)

レントゲン検査では、チョコちゃんの脊椎に奇形や脱臼、炎症や腫瘍に伴う骨の変化は認められませんでした。
よって、椎間板ヘルニア以外の病気が原因である可能性は低くなります。

確定診断には:

  • MRI:圧迫の程度・位置が最も明確
  • CT:石灰化ヘルニアや骨の評価が得意

が必要になります。

しかし、基本的に小さな街の動物病院にはない施設で、全身麻酔が必要な検査です。

歩けないなど、症状が重く、手術の必要性を検討する場合には、検査施設のある大きな動物病院や、検査を行う会社を紹介させていただいています。

椎間板ヘルニアとは?

背骨の間にあるクッション(椎間板)が飛び出し、
脊髄や神経を圧迫して痛みや麻痺を引き起こす病気です。
主にダックスフンド・コーギー・シーズーなど、胴長短足の犬種で多く見られます。

◆ 主な症状

  • 急に痛がる(背中・首)
  • 歩き方がふらつく
  • 後ろ足が弱る・引きずる
  • 触るとキャンと鳴く
  • 抱っこを嫌がる
  • 重症では
    • 立てない・歩けない
    • 尿や便が出にくい(排尿障害)

症状は急に出ることが多く、早期対応がとても重要です。

◆ 原因

  • 遺伝的な椎間板の弱さ(軟骨異栄養性犬種)
  • 椎間板の老化(加齢)
  • ジャンプ・段差の衝撃
  • 肥満による負担増加
私(獣医)
私(獣医)

きっかけに激しい運動や落下などの衝撃もありますが、犬種が大きな要因であることが多いです。

軟骨異栄養性犬種とは?🐶

軟骨の遺伝的な障害により、椎間板が変性しやすいため、椎間板ヘルニアを起こしやすい体質です。特に若い年齢(2〜6歳)で椎間板ヘルニアを起こしやすいのが特徴です。

◆ 主な軟骨異栄養性犬種

  • ダックスフンド
  • ウェルシュ・コーギー
  • シーズー
  • ペキニーズ
  • フレンチブルドッグ
  • パグ
  • ビーグル
  • トイプードル(一部系統)
  • ラサアプソ
  • ビションフリーゼ など

治療

椎間板ヘルニアの治療は、症状の重さ(歩ける/歩けない、痛みの程度) によって大きく変わります。

私(獣医)
私(獣医)

チョコちゃんは今は痛みのみで、ふらつきや麻痺はみられません。
痛み止めを1週間、処方しますが、治療の第一は安静です。
2週間を目安に、最低限の運動量にして、お散歩も控えてくださいね!

お父さん
お父さん

どこが痛いのか、わかって安心しました!

私(獣医)
私(獣医)

後ろ足を引きずる・歩けないなど、症状が重くならないか、注意してください。椎間板ヘルニアでは重症では速やかな手術が必要になることもあります!

お父さん
お父さん

わ、わかりました・・・💦!

お家で注意すべきこと 🏠

椎間板ヘルニア(特に軟骨異栄養犬種)になりやすい子のご家庭で、日常生活で注意すべきポイントを、飼い主さん向けに分かりやすくまとめます。

🟢 肥満させない

👉 体重が増えると、椎間板への負担が直接増加します。適正体重を保つのが、非常に大切です。

🐶⬇️ダイエット用のご飯を活用していただくのも、満腹感が得られるのでおすすめです。
ですが食べ過ぎるとやはり太るので要注意です⚠️。適量を計測して与え、こまめに体重測定を行うことが大切です。

🟢 段差・ジャンプ・滑りを避ける

👉「縦方向の衝撃」を減らすことが最重要。

  • ソファ・ベッドに乗せない
  • スロープやステップを設置
  • 抱っこで乗せ降ろし
  • 階段は使わせない

🐶⬇️様々な滑り止めグッズがあるので、ご自宅に合うものを探してみてください☺️

🟢激しい遊びはしない

👉 急なひねり・急停止を伴う動きは危険。

  • ボール遊びのダッシュ
  • 高速での追いかけっこ
  • 縄引きで強く引っ張る遊び

🐶 腰が痛い犬の正しい抱っこの方法

  1. 片手を胸の下(前足の後ろ)に入れる
  2. もう片方の手をお尻や腰の下にしっかり添える
  3. 背中が水平になるようにゆっくり持ち上げる

👉 “二点持ち”で体をまっすぐに保つ のがポイント。

私(獣医)
私(獣医)

脇の下を持ち上げたり、“肩に引っ掛けるような抱っこ”は腰に負担がかかるで避けてくださいね。

チョコちゃんのその後・・・

お父さん
お父さん

チョコはとても元気になって、抱っこしようとしても鳴くことはなくなりました。

私(獣医)
私(獣医)

本当によかったです!
しかし、油断は禁物☝️。
ダックスフントは椎間板ヘルニアを繰り返しやすいので、
体重管理と、普段の生活で腰に負担をかけないよう、引き続き注意してくださいね!

まとめ

犬は痛みの場所を言葉で伝えられないため、「抱っこした時にキャン!」と鳴く場合でも、腰だけでなく、お腹・皮膚・関節など、さまざまな原因を考える必要があります。
中でも椎間板ヘルニアは非常に多い病気で、犬種や体質によるなりやすさも大きく関わります。

椎間板ヘルニアは早期であれば安静や内科治療で改善することもありますが、重度になると歩けなくなることもあり、早い段階で気づき、対処することがとても大切です。
日常での予防や気をつけるポイントを知っておくことで、発症リスクを減らすことにもつながります。

今回は、椎間板ヘルニアが疑われたチョコちゃんのケースを通して、初期症状やおうちで注意すべき点をまとめました。愛犬の腰の健康管理の参考になれば幸いです。

※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。

参考文献

Brisson BA. Intervertebral Disc Disease in Dogs. Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 2010; 40(5): 829–858.

Jeffery ND, Levine JM, Olby NJ, Stein VM. Intervertebral Disk Degeneration in Dogs: Consequences, Diagnosis, Treatment, and Future Directions. Journal of Veterinary Internal Medicine, 2013; 27(6): 1318–1333.

Shores A, Brisson BA (eds). Current Techniques in Canine and Feline Neurosurgery. Wiley-Blackwell, 2017.(椎間板ヘルニアの診断・治療が詳しく解説)

コメントやご相談もお待ちしています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました