日頃から元気に見える猫でも、実は腎臓の機能が静かに落ちていることがあります。
今回、健診で動物病院を受診した小次郎ちゃんにも、初期の腎不全が見つかりました。

この記事では、腎臓の検査で何が分かるのか、そして国際的な基準である「IRISステージ」に応じた治療の進め方について、小次郎ちゃんのケースを参考にわかりやすくまとめています。
“シニア期の猫と暮らす方に知っておいてほしいこと”を、ぜひチェックしてみてください。
症例 🐱
小次郎くん。雑種猫、14歳、男の子


元々、父が飼っていた猫なのですが、体調を崩してしまって。
私が引き取ることになりました。飼うなら、ちゃんと面倒見てあげないと。
今日は健康診断に来ました。

すばらしいです!
よろしくお願いします。
🐱小次郎くんの診察
カルテを確認すると、小次郎くんは3年ぶりの来院です。
今も痩せてはいませんが、もともと5kgくらい ➡️ 現在4kg。
脱水症状はありません。
心臓の音、呼吸は問題ありませんでした。

高齢の猫ちゃんでは、腎機能低下や甲状腺機能亢進症、慢性膵炎、腫瘍など、少しずつ体重が減ってしまう原因となる病気がいくつかあります。
まずは、血液検査をしてみましょうか。
検査
血液検査🩸

【小次郎くんの血液検査】
BUN:52mg/dL(16〜36 mg/dL)
クレアチニン:2.5mg/dL(0.8〜1.6 mg/dL)
カルシウム(Ca):9.0mg/dL(8.5〜11.8 mg/dL)
リン(P):5.0mg/dL(3.0〜6.0 mg/dL)
SDMA :20mg/dL(0〜14 µg/dL)
※( )内は正常値

腎臓に関する数値が基準より高かったですね。
次に、尿検査と、超音波検査で腎臓の形態の確認しょう。
① BUN(尿素窒素)
- 腎機能低下で上昇しやすい
- 脱水・消化管出血・高タンパク食 でも上がる
👉 腎臓だけで判断しないことが大事
👉 急に上がっている時は脱水の影響もチェック
② クレアチニン(Cre)
- 腎機能を評価する主要指標
- 筋肉量に左右されるため、痩せた子は数値が低めに出る
👉 腎臓病の「進行度」を見る指標(IRISステージ)
③ SDMA
- 早期腎機能低下を検出しやすい
- Cre より先に上がることが多い
👉 Stage 1 の診断に役立つ
👉 脱水の影響は受けにくい(とはいえ万能ではない)
④ リン(P)
- 腎臓病で 排泄できなくなり上昇
- 高リンは 食欲低下・吐き気・腎臓の悪化(Ca×P上昇) を招く
👉 腎臓病管理では最重要のコントロール項目のひとつ
⑤ カルシウム(Ca)
- 腎臓病では上下どちらにも変化しうる
- Ca×P(カルシウム×リン)=70未満 が理想
👉 高すぎると「石灰沈着」や腎機能の悪化につながる
⑥ カリウム(K)
- CKDでは 低カリウム になりやすい(特に猫)
→ 筋力低下・脱力・食欲低下 - 高カリウムは心臓に影響があるため危険
👉 定期チェックが必須
⑦ ナトリウム(Na)・クロール(Cl)
- 大きく異常があれば脱水・酸塩基バランスの乱れ
- 点滴内容や摂食状況で変動
👉 進行例ではバランス異常が出やすい
⑧ 貧血(PCV / Ht / Hb)
- 腎臓で作られる“エリスロポエチン”不足で起こる
👉 進行したCKD(Stage 3〜4)でよく見られる
👉 元気消失・粘膜蒼白・ふらつきの原因に
⑨ 総タンパク・アルブミン
- 低アルブミン → 栄養不良、慢性的な炎症、たんぱく漏出
- 腎臓病では 尿たんぱく とセットで見て評価
👉 食欲や体重と一緒に判断すると有用

脱水の影響や猫・犬の体格差もあるため、定期的に複数回チェックすることがとても重要です。
超音波検査

小次郎ちゃんの腎臓には、腎結石、腫瘍などの明らかな異常は見つかりませんでしたが、
左右とも正常より若干小さく、内部の構造が不明瞭になっていました。


やはり腎臓に、初期の形態的な異常がみられます。
このまま超音波で位置を確認しながら、膀胱を穿刺して尿を採取し、尿検査を行いましょう。
尿検査

超音波ガイド下で採尿しました。
【小次郎くんの尿検査】
- 尿比重:1.014 、低下↓ (正常1.035 〜 1.060 前後)
➡️ 腎機能が低下して、尿を濃縮濃縮することができなくなっている可能性 - 尿蛋白(ー)
- 炎症細胞・細菌(ー)
➡️ 腎炎・膀胱炎は否定的
① 尿比重(USG)

何を見る?
尿の濃さ(=腎臓がどれくらい尿を濃縮できているか)。
腎不全ではどうなる?
- 1.035未満(猫)/1.030未満(犬)
→ 腎臓の濃縮力低下が疑われる - 1.008 前後
→ “等張尿”。腎臓が水を調節できていないサイン

血液検査の異常がなくても、尿比重が低い場合は腎臓の早期異常を疑えます。
② 尿蛋白(UPC/尿タンパク・クレアチニン比)

何を見る?
尿にたんぱくが漏れ出ていないか。
腎不全ではどうなる?
腎臓の糸球体がダメージを受けると、たんぱくが漏れやすくなる。
基準(猫・犬共通)
| UPC | 評価 |
|---|---|
| < 0.2 | 正常 |
| 0.2–0.4(猫)/0.2–0.5(犬) | 境界 |
| > 0.4(猫)/>0.5(犬) | 異常・治療検討 |

血圧と一緒に悪化すると、腎臓へのダメージが進行しやすくなります。
尿蛋白はステージ分類とは別にIRISが独立して管理を推奨しています。
③ 尿中沈渣(細胞・結晶・細菌など)

尿を遠心して、中に何が入っているかを顕微鏡で調べる。
腎不全で重要なポイント
- 細菌 → 膀胱炎・腎盂腎炎(腎臓悪化の原因になる)
- 円柱(顆粒円柱など) → 腎臓の組織ダメージを示すことがある
- 結晶 → 尿路結石の原因に
- 血尿 → 膀胱炎、結石、腫瘍など

腎不全では、二次的な尿路感染や結石が合併しやすいので、沈渣チェックはとても大切です。
🐱猫の尿検査についてはこちらの記事も読んでみてください⬇️
血圧測定

腎臓が悪くなると、血圧を調整するホルモン(レニンなど)が乱れ、全身の血圧が上昇しやすくなります。
高血圧になると腎臓の血管に負担がかかり、
腎臓病が進行する → さらに血圧が上がる → さらに進行する
という悪循環に入ってしまいます。


今の小次郎ちゃんは、血圧は異常ありませんでした!
① なぜ血圧測定が必要?
- 腎臓が悪くなる → 血圧が上がりやすくなる
- 血圧が高い → 腎臓へのダメージがさらに進む
という悪循環が起こるため。
また、高血圧は
- 目の網膜剥離(急な失明)
- 脳の障害
- 心臓の負担
など重大な合併症の原因にもなります。
② 猫の血圧の目安(IRIS/ACVIM)
| 収縮期血圧(SBP) | リスク分類 | 目安 |
|---|---|---|
| <140 mmHg | 正常 | 特に問題なし |
| 140–159 | 境界 | 繰り返し測定して経過観察 |
| 160–179 | 高血圧 | 治療を検討 |
| ≥180 | 重度高血圧 | すぐに治療が必要 |
④ 高血圧が見つかったら?
腎不全の猫では、以下の管理が重要になります。
- **降圧薬(アムロジピンなど)**の使用
- 尿タンパクの評価(血圧とセットで悪化することが多い)
- 定期的な再測定(治療開始後は 1〜2 週間で再チェック)
- 食事の見直し(リン・塩分の管理)

血圧を管理することは、
- 腎臓の悪化を防ぐ
- 突然の失明など重大な合併症を予防
- 治療の効果をしっかり確認
することにつながります。
結果 🐱
【 腎機能低下 (IRISステージ2) 】


小次郎ちゃんは腎機能低下から、高窒素血症が認められ、そのことから食欲低下が起きている可能性があります。
腎機能低下に対する治療を始めることをお勧めします。

小次郎くん、腎機能が低下していたんですね。
どうしたら良いでしょう。
腎機能低下とは

IRIS(International Renal Interest Society、アイリス)分類 は、
慢性腎臓病(CKD)の重症度を客観的に評価するための国際基準です。
🐱 腎臓病のIRIS分類
| ステージ | 血清クレアチニン (sCr) | SDMA | 簡単な説明 |
|---|---|---|---|
| Stage 1 | < 1.6 mg/dL | 正常〜軽度上昇 | 腎臓に何らかの異常が疑われるが、まだ高窒素血症はなし。 |
| Stage 2 | 1.6 – 2.8 mg/dL | 軽度上昇 | 軽い腎機能低下。症状はほとんど出ないことが多い。 |
| Stage 3 | 2.9 – 5.0 mg/dL | 中等度上昇 | 中等度の腎機能低下。食欲低下や脱水などの症状が出やすい。 |
| Stage 4 | > 5.0 mg/dL | 高値 | 重度の腎不全。積極的な治療や管理が必要。 |
※注記
この表は、IRIS の 2023 年版の CKD ステージ分類/治療ガイドラインに準拠しています。

ステージ判定には血清クレアチニン/SDMAだけでなく、尿たんぱく(UPC)・血圧・尿比重・臨床症状などもあわせて評価するのが基本です。
🐱 CKD(慢性腎臓病)IRISステージごとの治療の目安
IRISのステージを目安に、治療を検討していきます。✏️
| ステージ | 目標・方針 | 具体的な管理ポイント |
|---|---|---|
| Stage 1 | 腎臓の変化を早く見つける | – 定期検査(血液・尿・血圧)- 可逆性要因の除去- 療法食は症状や検査で獣医と相談 |
| Stage 2 | 進行の抑制 | – 療法食を検討– 水分補給・生活環境の見直し- 血圧・尿たんぱくのチェック |
| Stage 3 | 症状や合併症への対応 | – 療法食必須(リン制限など)- 水分補給・脱水対策- 血圧・電解質・尿たんぱくの管理 |
| Stage 4 | QOL維持・支持療法 | – 療法食必須- 水分補給や補液- 合併症管理(高血圧、貧血など)- 食欲不振時は補助療法も |
※注記
この表は、IRIS の 2023 年版の CKD ステージ分類/治療ガイドラインに準拠しています。

療法食の導入は「猫の体調、食欲、好み、他の検査値」もふまえて、担当の獣医師と相談してくださいね!
🔍 治療のポイント
- 早期ステージほど 生活管理や食事療法が中心になります。
- 進行ステージほど 薬物療法・輸液・合併症管理が重要です。
- 定期的な血液・尿検査で ステージの進行を把握 することが治療の基本になります。

小次郎くんの治療 🐱

- 腎臓用療法食の導入
- 十分な水分摂取を促す

小次郎くんの腎機能低下は、IRIS分類ではステージ2ですが、体重減少があり、BUNが高いです。
ステージ2では、療法食は検討、ですが、小太郎ちゃんの場合、開始してみてもいいかもしれません。

わかりました!まずは腎臓の療法食、試してみたいと思います。

まずは1ヶ月後の再診で、体重、血液検査と血圧を確認し、治療を検討していきましょう!
腎臓の療法食の特徴🍽️

腎臓の療法食は、いろいろなメーカーが製造しています。
主に以下のような特徴があり、腎臓の障害の進行を遅らせたり、症状を緩和させたりします。
1. タンパク質の調整🍖
- 腎臓に負担をかけない 高品質・適量のタンパク質
- 老廃物(尿素・クレアチニン)の生成を抑える
2. リンの制限
- 腎機能が低下するとリンが体内に蓄積しやすい
- リンの量を調整することで、腎不全の進行を遅らせる
3. エネルギーの調整💪
- タンパク質が制限されても十分なカロリーを確保
- 食欲低下時でも必要な栄養を摂取しやすい
🐱動物病院でも紹介している、腎臓の療法食の例です。⬇️
猫の飲水を促す工夫💧


腎機能が低下すると、薄いおしっこをたくさん出してしまうので、こまめにお水を飲んでもらうことが大切です。
しっかり水分がとれていると、腎臓への負担も軽減できます。
① 水の置き場所を増やす
- 家の数カ所に水皿を置く
- 高い場所・静かな場所など、猫が安心できる場所に設置
② 常に新鮮な水を用意
- 1日1〜2回の交換
- フィルターファウンテン(循環式給水器)も効果的
⬇️猫は流水を好む傾向があります。このような吸水器を使用すると、猫が興味を示して飲水量が増える効果が期待できます。🐱
③ ウェットフードを活用
- ドライだけより、水分が圧倒的に増える
- ウェットにさらに少し水を混ぜるのも◎
⬇️腎臓の療法食には、パウチや缶詰もあります🐱
まとめ 🌼
猫は腎機能低下が起こりやすい動物です。
初期には、尿量や飲水量の増加から始まり、進行すると食事量が減り、脱水や体重減少を引き起こします。さらに悪化すると、食事が取れなくなってしまうほど進行してしまうこともあります。

しかし、猫は不調が外からは分かりにくく、とくに高齢の子は“いつも通り”に見えても病気が進行していることがあります。
そのため、定期的な検診や早めの受診は、腎臓の病気をはじめ、その他の異常を見つけるのにとても役立ちます。
初期の腎機能低下が見つかった、小次郎ちゃんの一例、参考にしていただけましたら幸いです。

※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
International Renal Interest Society (IRIS). “IRIS Staging of CKD (Chronic Kidney Disease).” IRIS, 2023.
Polzin DJ. “Chronic Kidney Disease in Small Animals.” Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 2011.
Barber PJ, Elliott J. “Feline chronic renal failure: clinical findings in 80 cases.” Journal of Small Animal Practice, 1998.


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