元気も食欲もあるのに、血液検査で「肝酵素値が高い」と言われたことはありませんか。
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、異常があっても見た目にはほとんど変化が出ないことがあります。
今回は、健診で肝酵素値の上昇を指摘され、サプリメントで経過をみていたものの改善せず、詳しい検査で肝臓の腫瘍が見つかった犬の症例をご紹介します。
この症例が、「元気だから大丈夫」と思いがちな肝臓の病気を考えるきっかけになれば幸いです。

症例 🐾 肝酵素値が高いと言われた小夏ちゃん

ジャックラッセルテリアの12歳、女の子の小夏ちゃんです。

他の動物病院で、1年ほど前に健診として血液検査を受けました。
その時に肝酵素値が高いと言われましたが、元気も食欲もあったため、サプリメントで様子を見ることになりました。
3か月ごとに再検査をしていましたが、数値はなかなか下がらず、最近は悪化してきていると言われ、不安になっています。ていましたが、悪化してきて、良くなりません。
初診時(他院)
- ALT:623 U/L (10〜100 U/L)
- AST:124 U/L (10〜50 U/L)
- ALP:217 U/L (20〜150 U/L)
- GGT:2 U/L (0〜10 U/L)
※()内は正常値
経過再診(数か月後)
- ALT:1234 U/L
- AST:320 U/L
- ALP:684 U/L
- GGT:6 U/L


だんだん肝酵素値が上昇してきているので、何か原因が隠れていそうですね。
詳しく検査してみましょう。
⬇️ 肝酵素値の考え方については、こちらも参考にしてください。🐶
診察 🐾

小夏ちゃんのお腹を触診してみると・・・

お腹を触診すると、ちょうど鶏の卵くらいの大きさのしこりが触れます。
本日は、画像検査としてレントゲン検査と超音波検査を行ってみましょう。
検査 🐾

肝酵素値が上昇している原因を調べるため、また触診で確認されたしこりの正体を確認するために、画像検査を行います。
レントゲン検査

レントゲン検査では、
・肝臓の大きさ
・肝臓の形
などを評価するのに役立ちます。
超音波検査

超音波検査では、さらに詳しく、
・肝臓の内部構造の異常
・血流
・肝臓の輪郭の異常
・胆嚢の状態
・できものの有無
などを確認するのに優れています。


画像検査の結果、小夏ちゃんの肝臓に接して、直径6cmほどのできものがあることがわかりました。
これが、肝酵素値上昇の原因になっていた可能性が高いと考えられます。

小夏の肝臓に、癌があった、ということでしょうか??

腫瘍なのか、そうではないのかは、現時点では確定できません。
次に、肝臓の細胞診を行い、腫瘍か、そうでないかを確認しましょう。

細胞診検査

細胞診検査では、超音波ガイド下で肝臓に細い針を刺し、少量の細胞を採取して顕微鏡で確認します。
できものがある場合、その正体が
・腫瘍なのか
・炎症によるものなのか
・過形成(正常な細胞が増えて塊になっている状態)なのか
などを調べることができます。

暴れてしまう子や、血流が多く出血のリスクが高いと判断される場合には、安全のために鎮静剤を使用して行うこともあります。

無事に細胞診を行い、肝臓のできものから細胞を採取することができました。
採取した細胞は、病理の専門機関へ提出し、詳しく確認してもらいます。
細胞診の検査結果 🐾

【 肝臓腫瘍の疑い (肝細胞腫、または肝細胞癌の可能性)】

検査の結果、肝臓から発生した腫瘍である可能性が高いことがわかりました。
今回の検査だけでは良性か悪性かの判断はできませんが、放置すると、腫瘍が少しずつ大きくなっていく可能性があります。

肝臓に腫瘍があったなんて…。
小夏は、これからどうなってしまうのでしょうか。

肝臓は「沈黙の臓器」とも言われています。
現在は肝酵素値が高いものの、元気や食欲もあり、普段通りの生活ができている状態です。
ただし、このまま腫瘍が大きくなると、胃を圧迫して食欲が落ちたり、腹腔内で出血を起こす可能性も考えられます。
可能であれば、手術で腫瘍を切除し、あわせて病理検査を行い、腫瘍の性質を詳しく調べることをお勧めします。

手術は正直怖いですが、これからも少しでも長く、元気に一緒に過ごしたいので、手術を検討したいです。

手術 🐾

後日、術前検査を行ったうえで、肝臓腫瘍の摘出手術を実施しました。
手術後の経過は良好で、術後2日目に退院となりました。


手術は無事に終了しました。
小夏ちゃん、本当によく頑張りましたね。
1週間後に傷の状態を確認し、切除した腫瘤の病理検査結果についてお話しする予定です。

(手術、がんばったよ〜🐶💦)

小夏、手術ほんとうによくがんばったね!お疲れ様。
お家でゆっくり休もうね!
数日後、再診と病理検査の結果 🐾

【 肝細胞腫(良性腫瘍) 】

病理検査の結果、肝細胞腫で、良性の腫瘍でした。
良性腫瘍であっても、無症状のまま大きくなり、気づいたときには手術が難しいほど増大したり、胃を圧迫して食欲低下を引き起こすことがあります。
今回は手術で腫瘍を完全に切除できたため、治療としては基本的に終了となります。
今後は再発や他の変化がないかを確認するため、定期的な術後検診を続けていきましょう。

手術は本当に心配でしたが、原因がはっきりわかり、思い切って手術をしてよかったと心から思います。
この症例から伝えたいこと 🐾

元気で食欲があっても、体の中で病気が進行していることがあります。
肝酵素値の上昇は「様子見」で済む場合もありますが、改善しない場合は原因を調べることがとても大切です。
今回のように、血液検査だけで終わらせず、超音波検査などの詳しい検査を行うことで、治療できるタイミングで病気を見つけられることがあります。
サプリメントは治療の代わりにはならないため、数値が気になるときは、早めに動物病院で相談することをおすすめします。
まとめ 🌼
元気・食欲があっても、肝臓の病気が隠れていることがあります。
肝酵素値が改善しない場合は、原因を調べる検査がとても重要です。
早期に見つかれば、今回のように治療につながるケースもあります。
小夏ちゃんの一例が、皆さまの参考になれば幸いです。



※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
日本獣医内科学アカデミー 編
『獣医内科学(小動物編)』 文永堂出版
日本獣医師会雑誌
犬・猫の肝疾患に関する総説・症例報告
Merck Veterinary Manual
Liver Disease in Small Animals
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