「たまに吐くだけだから大丈夫?」高齢猫の嘔吐と体重減少、慢性膵炎だった一例

嘔吐

高齢になると、猫の食欲や体重の変化は「年のせいかな」と見過ごされがちです。
しかし、週に1回ほどの嘔吐や、ゆっくり進む体重減少の裏に、病気が隠れていることもあります。

今回は、慢性膵炎が見つかった猫のトムくんの症例を通して、高齢猫の嘔吐と体重減少について解説します。

この記事でわかること 📝
  • 猫の慢性膵炎とはどんな病気か
  • 嘔吐・食欲不振・体重減少など、よく見られる症状
  • 慢性膵炎が見つかりにくい理由
  • 診断のために行う検査(血液検査・画像検査など)
  • 症例(トムくん)での治療方針と経過
  • 慢性膵炎と長く付き合うための管理・ケアのポイント

症例:雑種猫のトムくん 🐾

猫のトムくん、13歳の雑種の男の子です。

お母さん
お母さん

最近、少し痩せてきたような気がして……。
食べてはいるんですが、量は前より減ってきていると思います。

私(獣医)
私(獣医)

そうなんですね。急にではなく、少しずつ食べる量が減ってきたということですね。
吐いてしまうことはありますか?

お母さん
お母さん

週に1回くらいは吐いてるでしょうか。でも、猫は吐くものですよね?

私(獣医)
私(獣医)

確かに猫は「吐きやすい動物」ではありますが、
「吐いていい動物」というわけではありません。

週に1回くらいの嘔吐が続く場合は、やや多い頻度と考えます。


猫🐱はどのくらい吐いたら受診が必要?

猫はもともと吐きやすい動物ですが、
頻度・様子・年齢によって「様子見」と「受診」が分かれます。


🟢 様子を見てもよいことが多い目安

  • 月に1回未満
  • 毛玉を吐いたあと、元気・食欲が普段通り
  • 体重減少がない

👉 一時的な毛球や軽い胃の刺激の可能性があります。


🟡 注意が必要な目安

  • 月に2〜3回以上吐く
  • 吐く頻度が以前より増えてきた
  • 食欲にムラがある
  • 高齢猫(7歳以上)
  • 体重が減っている
私(獣医)
私(獣医)

月に2〜3回以上吐く場合は判断に迷いがちですが、痩せてきた場合は要注意です。早めの受診をおすすめします。


🔴 受診を勧める目安

  • 週に1回以上吐く
  • 1日に何度も吐く日がある
  • 体重が減っている
  • 水をよく飲む・尿量が増えている
  • 高齢猫
私(獣医)
私(獣医)

慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症、消化管疾患などが疑われます。

⬇️ 頻回の嘔吐についてはこちらも参考にしてください。🐱


特に高齢猫では要注意⚠️

高齢猫では
「たまに吐く」は、病気のサインのことが多いです。

  • 月1回 → OKなことが多い
  • 月2回以上 → 注意
  • 週1回以上 → 受診推奨

猫の嘔吐は月に1回程度までで、元気・食欲があれば様子見できることもありますが、月に2〜3回以上、特に高齢猫で吐く頻度が増えてきた場合は、病気が隠れている可能性があるため、動物病院での相談をおすすめします。


診察 🐾

私(獣医)
私(獣医)

1年前のワクチンの時は4.5kgありましたが、今日は4.0kgまで体重が減っていますね。
嘔吐の頻度を考えても、何か病気が隠れている可能性があります。
今日は、血液検査と超音波検査を行って、詳しく調べてみましょうか。

お母さん
お母さん

思っていたより体重が減っていたんですね💦
ぜひ、よろしくお願いします。


高齢猫が吐く・痩せるときに考える病気

症状が似ていても、原因によって治療方針は大きく異なるため、検査による見極めが重要です。

  • 慢性腎臓病(CKD)
  • 消化管疾患(炎症性腸疾患・腫瘍)
  • 慢性膵炎
  • 甲状腺機能亢進症
  • 毛球症・異物など
私(獣医)
私(獣医)

これらの病気は、
血液検査と超音波検査を中心に評価し、総合的に判断していきます。


検査 🐾

私(獣医)
私(獣医)

それではトムくん、まずは採血をしますね🩸。
次に超音波検査も行いますので、もう少し頑張りましょう。


血液検査🩸

高齢猫で嘔吐や体重減少がみられる場合、
血液検査は全身状態を把握するための基本検査です。

  • 腎臓:BUN・クレアチニン・SDMA
  • 肝臓・胆嚢:ALT・AST・ALP・総ビリルビン
  • 膵臓:猫膵特異的リパーゼ(fPLI)
  • 甲状腺機能亢進症:T4(総サイロキシン)
  • 炎症や脱水の有無:白血球数・赤血球数・ヘマトクリット 
私(獣医)
私(獣医)

血液検査では、腎臓・肝臓・膵臓・甲状腺の状態を確認し、嘔吐や体重減少の原因を探っていきます。


超音波検査

超音波検査では、お腹の臓器の形や大きさを直接確認することができます。

  • 腎臓:大きさや形の変化、慢性腎臓病の評価
  • 消化管:腸の壁の肥厚(炎症性腸疾患や腫瘍の疑い)
  • 膵臓:腫れや周囲の変化(慢性膵炎の可能性)
  • 肝臓・胆嚢:肝炎や胆道系疾患の確認
  • 異物や毛球:胃や腸内の内容物

トムくんの診断 🐾

【 慢性膵炎の疑い 】

私(獣医)
私(獣医)

今回の血液検査では、fPLI(猫膵特異的リパーゼ)が基準値より高値を示していました。
また、肝臓・胆道系の数値(ALT、ALP など)も軽度に上昇しており、
炎症反応(白血球数)は慢性炎症を示すパターンでした。

超音波検査では、膵臓がやや腫大しており、周囲の脂肪組織に炎症所見が認められました。

これらの検査結果を総合すると、猫の慢性膵炎の可能性が高いと考えられます。

お母さん
お母さん

慢性膵炎ってなんでしょうか?どうすれば良いのですか?


猫の慢性膵炎とは?

猫の慢性膵炎は、膵臓に軽度〜中等度の炎症が長期間続く病気です。
症状がはっきりしないことも多く、高齢猫で見逃されやすいのが特徴です。


主な症状

慢性膵炎では、以下のようなあいまいな症状がよく見られます。

  • 食欲低下、食べムラ
  • 元気がない、寝ている時間が増える
  • 体重減少
  • 嘔吐(出ないことも多い)
  • 下痢(必ずしも出ない)

👉 犬と違い、強い腹痛や頻回の嘔吐が出ないことも多いです。

私(獣医)
私(獣医)

急性膵炎では、急激な嘔吐や下痢といったはっきりした症状が現れますが、
慢性膵炎では、週に1〜2回の嘔吐や、徐々に体重が減っていくなど、気づきにくい変化として現れるのが特徴です。


原因

高齢の猫で問題になりますが、多くの場合、はっきりした原因は不明です。

私(獣医)
私(獣医)

剖検研究では、症状の有無にかかわらず、多くの猫で慢性的な膵臓の炎症が認められたという報告があります。

こうした報告から、猫の慢性膵炎は、気づかれていないだけで比較的よくみられる病気と考えられます。


診断方法

慢性膵炎は診断が難しい病気です。

主に以下を組み合わせて判断します。

  • 血液検査(Spec fPL など)
  • 超音波検査(膵臓の腫大・不整)
  • 症状や経過

1つの検査だけで確定できないことも多いです。


治療

完治を目指す治療ではなく、症状をコントロールする治療が中心です。

  • 吐き気止め
  • 食欲増進剤
  • 鎮痛薬
  • 脱水の予防、必要に応じて点滴
  • 併発疾患(IBD・胆管肝炎)の治療
私(獣医)
私(獣医)

猫の慢性膵炎では、症状や併発疾患に応じて、炎症を抑える目的でステロイド治療が選択されることがあります。

ステロイドには、慢性的な炎症を抑え、痛みや吐き気を軽減し、食欲の改善が期待できます。

⬇️ 脱水の予防は、膵炎治療では重要です。飲水を促すには、循環式のウォーターサーバーもお勧めです。


予後と付き合い方

慢性膵炎は再発を繰り返すことが多い病気です。

  • 症状が落ち着いている時期(寛解期)を長く保つことが目標
  • 食欲低下や元気消失を早めに察知することが大切

トムくん治療 🐾

私(獣医)
私(獣医)

慢性膵炎の治療では、
脱水の補正炎症を抑えること、そして 嘔吐を抑えて食欲の改善を促すこと が大切です。

今日は皮下輸液を行って、脱水を補正しますね。
あわせて、吐き気止めとステロイドの注射💉もしていきましょう。

私(獣医)
私(獣医)

嘔吐が落ち着くまで、飲み薬でしばらくステロイド治療を行い、症状が改善してきたら、状態を見ながら徐々に減量していきましょう。

あわせて、お腹の動きを改善する整腸剤も使ってみましょうか💊

お母さん
お母さん

わかりました。お薬、飲めるかな・・・

私(獣医)
私(獣医)

飲み薬が苦手な猫も多いですよね💦

慢性膵炎の治療は、多くの場合「完治」を目指すというよりも、症状をコントロールしながら良い状態を保っていく長期戦になります。

飲み薬で苦労しすぎてしまうと、治療を続けること自体が負担になってしまいます。
そのため、その子に合った方法で、無理のない投薬がとても大切です。

⬇️ このような製品は、投薬をとても楽にしてくれます🐱


その後、再診 🐾

トムくんの2週間後、再診です。

お母さん
お母さん

トムはほとんど吐くことはなくなり、食欲も増えてきたようです。
投薬もおやつを使って、簡単にできるようになりました!

私(獣医)
私(獣医)

よかったですね。体重も 100g 増加しています。

慢性膵炎は、一度落ち着いても再燃を繰り返すことが少なくありません。
このため、今後もしばらくはステロイドを徐々に減量しながら内服を継続し、症状のぶり返しがないか注意深く経過を見ていきましょう。

体調の変化や嘔吐が再び見られた場合は、早めに受診してください。


まとめ 🌼

高齢の猫では、「なんだか食欲がない」「たまに吐くけれど元気そうだから大丈夫かな?」と様子を見ているうちに、気がついたら体重が減っていた、ということが少なくありません。
慢性膵炎や甲状腺機能亢進症、慢性腎臓病などは、初期症状が分かりにくく、早期発見が難しい病気です。

猫は吐きやすい動物ですが、吐いてもよい動物ではありません。
目安として、週に1回以上の嘔吐が続く場合や、痩せてきている場合は注意が必要で、早めの動物病院受診をおすすめします。

慢性膵炎は多くの猫で見られる可能性のある疾患で、嘔吐や体重減少など、気づきにくい変化として現れることがあります。

今回ご紹介した、猫のトムくんの症例が、皆さまの参考になれば幸いです。

※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。

参考文献

  • 日本獣医内科学アカデミー(JCVIM)
    猫の膵炎について
  • Diagnosis of feline pancreatitis
  • Steiner JM, Williams DA.
    Feline pancreatitis
    Journal of Feline Medicine and Surgery

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