猫がしきりに体を舐め続け、気づけばお腹や足の毛が薄くなっていた——。
「皮膚の病気?」「ストレス?」と心配になり、来院される飼い主さんは少なくありません。
猫の皮膚のかゆみは、感染症やアレルギーなど原因がさまざまで、診断や治療に時間がかかることもあります。
今回は、強いかゆみと舐め壊しで来院し、試行錯誤を重ねながらステロイドから体に負担の少ない治療へ移行できた、アトピー性皮膚炎のミクちゃんの一例をご紹介します。
同じように「かゆみ」で悩む猫ちゃんと飼い主さんの参考になれば幸いです。
症例 🐾 猫のミクちゃん

ミクちゃん、雑種、5歳の女の子です。

もともとグルーミングが多い猫だとは思っていましたが、最近になってお腹の毛がなくなり、ツルツルの状態になってきました。
また、前腕や太ももの内側も頻繁に舐めており、被毛が薄くなっています。
特に右の前腕の内側は皮膚が傷つき、ジクジクして痛そうな様子です。

わかりました。ミクちゃんは完全室内飼育、ということですね。
診察していきましょう!
診察 🐾

全身の皮膚を確認しました。
顔まわりや背中には特に異常は認められません。
体を横にして腹部を観察すると、下腹部、前肢、後肢の内側を中心に、広範囲で被毛が薄くなっていました。
特に右前肢の内側は皮膚が傷つき、びらんと湿潤が認められ、痛みがありそうな状態です。
周囲の被毛を引っ張っても、簡単に抜ける様子はありません。
毛の状態を近くでよく観察すると、毛が途中でちぎれています。

被毛そのものはしっかりしているようですが、ミクちゃんが舐めたり噛んだりする行動によって、被毛が切れてしまい、結果として毛が薄くなっている可能性が高いと考えられます。

これから、原因を詳しく調べるために皮膚の検査を行っていきます。
皮膚の検査 🐾
ノミの感染の確認

ノミやノミのフンがいないかをチェックします。
完全室内飼育でも、念の為注意が必要。

ノミが直接見つからなくても、黒い小さな粒が体についていることがあります。これを少し濡らすと赤くなる場合、ノミが血を吸ったあとのフンだと分かります。
抜毛検査

皮膚糸状菌と呼ばれるカビは毛に感染するため、毛を採取して、菌が付いていないかを顕微鏡で調べます。

セロテープ(押捺)検査

皮膚にセロテープを軽く押し当てて採取し、細菌や酵母様真菌が増えていないかを確認します。
ミクちゃんの診断 🐾
【 診断名:舐性脱毛(アレルギーの関与が疑われる) 】


皮膚の検査では、細菌や真菌、ノミなどの感染は否定的です。
皮膚の病気で毛が抜けたというよりも、舐め続けたことで被毛が切れ、結果として毛が薄くなっている状態です。

体質的なアレルギーが関係している可能性が高いと考えられますが、まれにストレスや習慣によって舐めてしまう猫もいます。

アレルギー?ストレス??どうしたら良いでしょう?
治療の流れ 🐾


今回は、まずは短期間ステロイドを使用して、かゆみと炎症を抑えてみましょう。

ステロイドで症状が落ち着くようであれば、ストレスや習慣だけが主な原因ではなく、アレルギーなどの体質的な要因が関与している可能性が高いと考えられます。
症状が落ち着いてきたら、今後どのようにかゆみをコントロールしていくかを一緒に考えていきましょう。

1週間後、良くなっているかどうかの確認ですね。
1週間後の再診 🐾


ほとんど舐めることがなくなり、右の腕の傷も乾いてきて、かなり良くなりました。お薬の追加をお願いしたいです。

ステロイドの使用で舐める行動が落ち着いたことから、ストレスや癖よりも、かゆみが主な原因になっていた可能性が高そうですね。

ステロイドは即効性があり、短期間の使用ではとても有効なお薬ですが、長期的に使用すると副作用が問題になることがあります。

なるほど……効いたからといって、ずっとステロイドを続けるのは良くないんですね。

アレルギーが疑われる場合は、まずこれまで行ってきたように感染症を否定したうえで食事療法を行います。

それでも症状の改善がみられない場合には、アトピー性皮膚炎を疑い、ステロイドやシクロスポリンなどの薬物治療で症状をコントロールしていくのがお勧めの流れです。

アレルギー性治療の治療について💊
感染症を否定したあと、アレルギーが疑われる場合は、まず食事アレルギーの鑑別として食事療法を行います。
それでも改善が見られなければ、食事以外のアレルゲンが関与するアトピー性皮膚炎を疑い、分子標的薬や免疫抑制剤による治療を検討します。
猫の皮膚炎における食事療法

猫の皮膚炎では、食事が原因になっているかどうかを確認することが治療の第一歩になることがあります。
食事療法の方法 🍽️

- 除去食試験を行う
→ これまで食べたことのないタンパク源、または加水分解食を使用 - 期間は8週間が目安
👉 この間は、おやつ・人の食べ物・サプリはすべて中止します。

途中で別のフードやおやつを少量でも与えてしまうと、正しい評価ができなくなってしまいます💦
反応がある子では、1か月ほどでかゆみの明らかな改善が見られることもありますが、
「効果がない」と判断するためには、最低でも約2か月間は続けて評価する必要があります。

そのため、除去食試験の効果判定には、飼い主さんの根気💪とご協力✨がとても大切になります🐱。
⬇️ 除去食試験では、このような療法食を使用することが多くなります。
「皮膚症状の改善に」などと表示されている点は一般食と似ていますが、目的はあくまで診断・治療のための食事管理であり、一般的なフードとは役割が異なります。
使用にあたっては、自己判断で切り替えるのではなく、必ず獣医師と相談したうえで行いましょう。

療法食って種類もメーカーもたくさんあって、混乱しそうですね…。
途中で迷わないように、ちゃんと覚悟して、獣医師の先生と相談しながら計画的に進めることが大事なんですね。
アトピー性皮膚炎の治療薬について

アトピー性皮膚炎は、食事やノミ、感染症などの原因が除外されたあとに診断されます。
体質が関係する慢性的な皮膚炎のため、「完治」を目指すというより、かゆみをコントロールしながら付き合っていく治療になります。
ステロイド(副腎皮質ホルモン)💊

特徴
- 即効性が高く、強いかゆみをすばやく抑える
- 比較的、安価
注意点
- 長期使用で副作用(糖尿病、免疫低下・など)のリスク

短期間・適切な量で使う分には、過度に心配する必要はありません。
症状を抑えながら、量を減らす・間隔を空ける使い方が基本です。
シクロスポリン(免疫抑制薬)💊

特徴
- 免疫の過剰反応を抑えてかゆみを軽減
- ステロイドが使いにくい場合の選択肢
注意点
- 効果が出るまで数週間かかる
- 消化器症状(下痢・嘔吐)が出ることがある
- 比較的、高価

シクロスポリンは、猫ではシロップタイプの製剤があります。
比較的高価なお薬ではありますが、1日1回の内服から開始し、症状が落ち着いて効果が認められれば、週2〜3回など投薬回数を減らしていくことも可能です。
分子標的薬💊
特徴
- かゆみに関わる特定の物質をピンポイントで抑える
- ステロイドより副作用が少ないとされる
注意点
- 効果の出方に個体差がある

分子標的薬は、2025年現在、猫で正式に認可された製品はありません。
犬用のお薬を猫に使うことはありますが、猫での効果や安全性は十分に確認されていないため、期待した効果が得られないこともあります。
その後・・・🐾
ミクちゃんは、療法食を2種類試しながら約4か月間経過をみましたが、ステロイドの減量が難しかったため、免疫抑制剤であるシクロスポリンの飲み薬を1日1回で開始しました。

今回は、開始から2週間後の再診です。


痒みの程度はいかがでしょうか?
食欲が落ちたり、下痢や嘔吐などの体調の変化はありませんでしたか?

今度のお薬は、明らかに痒がる様子が減ったように感じます。毛もふわふわと、うっすら生えてきました。
飲み始めは少しうんちが緩かったですが、しばらくして落ち着き、今はいつも通りです。

(おくすり、がんばったにゃー🐱)

皮膚の状態も、体調全体も、いまはとても落ち着いていますね。
まずは、シクロスポリンを1日1回から2日に1回に減らして、かゆみがぶり返さないか様子を見ていきましょう。
これまでの経過から考えると、ミクちゃんはアトピー性皮膚炎として、今後も上手に付き合っていく必要がありそうです。
できるだけかゆみのない、快適な毎日を過ごせるよう、これからも一緒に考えていきましょうね。

時間はかかったけど、ミクにとって負担の少ないお薬に切り替えられそうで安心しました。
ミク、これからも頑張ろうね。
まとめ 🌼
猫の皮膚のかゆみは、ノミなどの感染、細菌・真菌感染、アレルギーなど、さまざまな原因で起こります。
食事アレルギーが疑われる場合、食事療法(除去食試験)はとても重要な診断・治療の一つです。
アレルギーの原因となる可能性のあるタンパク質を調整した特別な療法食を使用し、
フードの選択や実施期間、正確な評価が必要になるため、獣医師と相談しながら計画的に進めることが大切です。
ノミなどの感染症や食事アレルギーを否定したうえで、アトピー性皮膚炎と診断されることがあります。
ステロイド治療は、即効性があり効果も高い反面、長期使用では副作用が問題となるため、基本的には短期間の使用が中心となります。
アレルギー疾患は、長期的に症状と付き合っていく必要がある病気です。
診断や治療の調整に時間がかかることもありますが、
猫ちゃんと飼い主さんの負担が少なく、無理なく続けられる治療法を見つけていくことが大切です。

アトピー性皮膚炎と診断されたミクちゃんの一例が、
同じように悩まれている飼い主さんの参考になれば幸いです。
※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
日本獣医皮膚科学会
「猫のアレルギー性皮膚疾患・アトピー性皮膚炎について」
ESVC Task Force on Feline Atopic Syndrome
Olivry T, et al. Feline atopic syndrome: detailed guidelines for diagnosis and management.
Miller WH, Griffin CE, Campbell KL.
Small Animal Dermatology, 7th ed. Elsevier
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