猫が耳を振って、痒がっている。引っ掻いて、血が出てしまった・・・。
「耳をかゆがる=外耳炎」と考えられがちですが、実は別の病気が隠れていることがあります。
今回の猫ちゃんは、耳の入り口に、小さなしこり(腫瘤)ができていたことが原因でした。
今日はそんな猫ちゃんの1例を紹介します。
症例:耳が痒い。外耳炎を疑った猫🐱
信長ちゃん、雑種猫、12歳、雄。

耳をぴくぴくさせたり、頭を振ったりしていたのですが、
昨日は後ろ足で引っ掻いて、血が出たんです。
外耳炎でしょうか?
犬ほどではありませんが、猫にも外耳炎は見られます。
原因は、以下のようなものがあげられます⬇️
- 感染症(耳ダニ、マラセチア、細菌など)
- アレルギーの関連(アトピーや食事アレルギーなど)
- 耳の構造の問題(スコティッシュの折れ耳など)
さて、信長ちゃんの外耳炎の原因は、なんでしょう?

外耳炎についての記事はこちら⬇️


診察🩺
信長ちゃんの耳の中を見てみます。
黒っぽい、血の乾いた塊が耳の中にびっしりです。
洗浄すると・・・耳道の入り口に、赤い、5mmくらいの膨らみがあります。
表面はジクジクして、血がにじんでいました。
検査(耳垢検査)
耳垢の検査では、炎症細胞と、細菌が少し見つかりました。
耳ダニは見つかりませんでした。
治療:点耳薬

耳の中に、5mmくらいのしこりがあります。
炎症のために腫れているのかもしれませんが、
腫瘍が根底にある可能性もあります。
今回は炎症が強いので、外耳炎の治療をしてみて、
まだ腫れが残るようなら、針生検をしましょう。
今回は、炎症を抑える点耳薬(抗生剤、抗真菌薬、ステロイドの合剤)を処方して、
1週間後に再診に来てもらうことにしました。
再診:改善はイマイチ・・・

先週よりは、耳を気にしなくなったようですが、まだ頭を振ります。
耳の中の炎症は少しおさまり、血の塊は無くなりましたが、
しこりが残っていました。表面はジクジクしています。

炎症を抑える治療をしても、しこりが消えませんでしたね。
では、今日は針生検をしてみましょう。
検査(針生検)
針生検(FNA、細針吸引生検)とは
しこりや腫れ物に、細い針をチクチク刺して、細胞を採取します。
スライドガラスに薄く伸ばして染色し、顕微鏡で確認します。
炎症か、角質のみか、脂肪の塊か、腫瘍か・・・
といった判断の、手がかりを得ることができます。
確定診断にはなりませんが、診察中に簡易的な判断をするのにとても便利です。

針生検の結果、信長ちゃんの耳のしこりからは、
炎症細胞以外の細胞が、まとまって採取されました。
今回は、針生検のスライドを外部の検査機関に送って、
病理の専門の先生の診断を仰ぐことにしました。
検査結果は、『耳垢腺癌の疑い』、でした。

耳道に腫瘍ができて、そこが炎症を起こしていたようです。
残念ですが、お薬だけでは、きれいに治してあげるのは難しいです。
手術をして腫瘍を摘出することで、完治できるかもしれません!
外科手術:耳道内の腫瘍の摘出!
後日。信長ちゃんの耳の中の腫瘍の摘出手術を実施しました。

切り取った組織は、ホルマリンに入れて病理の検査に提出しました。
病理の検査に提出することで、確定診断ができます。
- 良性か、悪性か
- 再発しやすいタイプか
- 追加の治療が必要かどうか
がはっきりします。
結果、その後・・・
病理検査の結果は、やはり、耳垢腺癌でした。
取り残しなく切除できていて、再発の可能性は低い、とのことです。

手術は心配だったけど、耳はきれいに治りました。本当に良かったです!!
手術して2週間後。抜糸して、エリザベスカラーも取れて、終了です!

よく頑張ったね、信長ちゃん!!
猫ちゃんの癌と向き合うときに、お勧めの1冊です🐱⬇️
まとめ
耳を気にしている場合、外耳炎が原因であることが多いですが、
中には別の原因が隠れているケースがあります。
なかなか、お家で猫の耳の中を覗くのは難しいかと思います。
外耳炎がなかなか治らない、何かおかしいな?と思ったら、動物病院で相談してみてください。
今回は、耳に癌ができていた、猫の信長ちゃんの一例でした。
参考にしていただけましたら幸いです。

※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
1. Little, S. The Cat: Clinical Medicine and Management. Elsevier, 2011.
2. Gross, T.L., et al. Skin Diseases of the Dog and Cat: Clinical and Histopathologic Diagnosis. Wiley-Blackwell, 2005.
3. Goldschmidt, M.H., & Goldschmidt, K.H. Tumors in Domestic Animals. Wiley-Blackwell, 4th ed., 2002.
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