アレルギー性皮膚炎で、ステロイドをやめた柴犬の一例

アレルギー性皮膚炎

ステロイドは、アレルギー性皮膚炎の治療ではとても重要です。

ステロイドの良いところは、

  • 安価。
  • 即効性がある。
  • 確実性もあり、ほとんど全ての子に効果が認められます。

短期的には、本当に良い薬です。
しかし、長期では、副作用が問題になり、使い方に注意が必要です。

今回は、ステロイドを中心とした治療から、別の方法を選択した、
アレルギー性皮膚炎の柴犬の治療を紹介します。

症例:柴犬の小夏ちゃん。

小夏ちゃん、柴、7歳。女の子です。

小夏ちゃんは、3歳の時にアトピー性皮膚炎を発症。

最初は軽い痒みで、肉球の間を舐めたり、目や口周りをこすったり。
ステロイドの飲み薬を1〜2週間くらい飲んで、一旦やめて。

しかし、だんだんステロイドを飲む頻度が増えて・・・
ステロイドを休薬することができなくなりました。

小夏ちゃん5歳の時。

気温が上がるなどは毎日ステロイドを飲む。
は痒みが減るので隔日に減らす。


というところで、皮膚の痒みをなんとか、コントロールしていました。

診察

今日は再診で、お母さんとお薬を取りに来院されました。

私(獣医)
私(獣医)

小夏ちゃん、痒みはどうですか?

お姉さん
お姉さん

今は落ち着いています。いつもの薬がなくなったので、処方して欲しいです。

しかし・・・

小夏ちゃんの状態は、痒みは少ないものの、

  • 全体の被毛が薄く、うっすら地肌が見えています。
  • 皮膚が薄く、弾力があまりありません。
  • 筋肉量が減って、腹筋が薄くなっていることで、お腹が少し膨らんでみえます。
私(獣医)
私(獣医)

ステロイドの長期使用による、副作用が出てきている可能性が高いようです。

💊ステロイドの長期使用による副作用

ステロイドは、様々な副作用が報告されています。
犬のアレルギー性皮膚炎では、体に影響が出にくい低容量で使用していたとしても、
何年か継続して使用していると、特に以下のような副作用が現れてきます。

皮膚の薄化・毛質の変化
  • 皮膚が薄くなる(薄皮症)
  • 毛が抜けやすい
  • 傷が治りにくい
  • 皮膚感染(細菌・マラセチア)が増えやすい
筋肉量の低下
  • 筋肉が落ち、後ろ足がふらつく
  • お腹がぽっこり見える(腹筋が弱くなるため)

ステロイドから、治療法の変更

お姉さん
お姉さん

小夏、副作用が出ていたんですね・・・気づきませんでした。

私(獣医)
私(獣医)

小夏ちゃんは5歳で、まだ若いです。
アレルギーの治療は、まだこれからも長く続けていく必要があるので、
体の負担が少ないものに変更してみましょうか。


ステロイドからの離脱を目指します。

ステロイド以外の治療法を提案します。
ステロイドより副作用が少ないのが長所ですが、

  • いずれも、やや高価である
  • 中には、良好な効果が得られない子もいる。

といった短所もあります。

飲み薬で、1日1回から開始します。

効果が出るのに時間がかかり、最初の数週間はステロイドなど、別の薬との併用が必要です。
効果の発現がゆっくりなので、薬を増やしたり減らしたりの小回りが効かないのが難点です。

しかし、うまくいけば、徐々に間隔をあけて週2、3回に減らしていくことができるので、
コストも軽減できます。

副作用は、お腹が緩くなるなどありますが、飲み続けていると緩和することが多いようです。

犬の痒みをターゲットにして、緩和させるお薬です。
ステロイドと違い、効果が痒みの緩和に限られているので、副作用の少ないのが特徴です。
飲み薬と、注射薬があります。

1日1〜2回で使用します。効果が出るのか早く、即効性があります。
コストはやや高めですが、
痒いときに回数を増やし、落ち着いているときに減らすといった、
小回りがきくのが使いやすい薬です。

基本的に月に1回、皮下に注射します。効果は1ヶ月持続します。
コストが高めなので、効果があればとても良いですが、効果がなかった場合は残念です(泣)
飲み薬が苦手な子にはとても便利な選択肢です。

小夏ちゃんは実は、飲み薬が少し苦手。
なので、まずは分子標的薬の注射から試してみることにしました。

1ヶ月後の再診の様子

お姉さん
お姉さん

痒がることはほとんどありませんでした!
薬を飲ませる苦労もなくなって、本当によかったです!

分子標的薬の注射。小夏ちゃんには合っていたようです。

その後・・・

その後、2年が経ちました。

小夏ちゃんは毎月、分子標的薬の注射を打ちに、動物病院に来てくれています。

たまに痒みが出る日には、単発でステロイドを使用し、
夏などに細菌感染による皮膚炎が起きた時は、
数週間抗生剤を使用する、ということはありましたが、

良好にアレルギー性皮膚炎をコントロールできるようになりました。

今では被毛は密に生えていて、皮膚の弾力はしっかりしています。
痒がっていた顔や肉球の間の赤みもなく、
アレルギー性皮膚炎がある子とは思えないような外貌になっています。

痒みからも、副作用からも、嫌いな飲み薬からも解放された小夏ちゃん。

毎月の注射も、嫌いなんだけどね・・・(泣)

まとめ

小夏ちゃんの例は、分子標的薬の注射がとてもよく効いてくれましたが、
ステロイドからの完全な離脱が難しかったり、複数の薬を調節しながら使ったり、
アレルギー性皮膚炎の治療に苦労することも多いです。

アレルギー性皮膚炎は、
基本的には完治することはなく、長くお付き合いしなければなりません

投薬、コスト、副作用など・・・

様々な要因を考慮し、無理なく続けられる治療をよく相談して、決めていく必要があります。

普段のスキンケアもとても大切です。

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アレルギー性皮膚炎の小夏ちゃんの一例参考にしていただけましたら幸いです。

参考文献
Elkholly D. A., Brodbelt D. C., Church D. B., Pelligand L., Mwacalimba K., Wright A. K., O’Neill D. G. “Side Effects to Systemic Glucocorticoid Therapy in Dogs Under Primary Veterinary Care in the UK.” Frontiers in Veterinary Science. 2020;7:515. DOI: 10.3389/fvets.2020.00515. Frontiers+1

[日本語/臨床向け資料] 日本動物医療センター “犬の医原性クッシング症候群(ステロイド長期投与による副作用)” 解説記事。日本動物医療センターの情報提供ページより。

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