明け方だけ吐くのに、日中はケロッとして食欲もある——。
一見「空腹による胃液の吐き戻し」に見えるこのパターン、実は犬でとてもよく相談される症状です。
多くは心配いらないケースですが、まれに“思ってもいない原因”が隠れていることも。
今日は、明け方の嘔吐だと思っていたら……実は胃の中に残っていた梅干しの種が原因だった、という症例をご紹介します。
さらに、犬の腸に詰まりやすい危険な異物と、その大きさの目安もまとめました。
症例:ポメラニアンのユキちゃん
ポメラニアンのユキちゃん、3歳です。


最近、ここ1週間くらい、明け方によく、黄色い胃液を吐きます。
その後、朝ごはんはしっかり食べて、日中に吐くことはありません。
明け方、胃が動き出してきたタイミングで胃液を吐いてしまうのは、
特に病気でなくてもよく見られる症状です。

しかし、何日か連続して毎朝吐くのであれば、逆流性食道炎になってしまい、
吐くことが悪循環になっていることがあります。
なので、その後けろっとして元気で、食欲もあるならば、
いったんしっかり吐き気を止める治療を数日、
注射や飲み薬を使ってしてあげると、落ち着くことが多いです。
しかし・・・

実は、1週間前に梅干しを食べてしまってからなんですよね。
うっかり落としたやつを丸ごと、種ごと全部。
結構大きい粒でした!

梅干し??種ごとですか?

ちょっと、話は違ってきます💦。
🐶 犬の腸に詰まりやすく危ないもの

梅干しの種や桃の種など、硬くて大きさのあるものは、犬が飲み込んでもすぐに症状が出ないことが多く、しばらく胃の中に留まってしまうことがあります。
しかし、時間が経って胃から小腸へと移動した瞬間、腸の細い部分で詰まってしまい、突然の反復性の嘔吐や強い腹痛を引き起こすことがあります。

● 危ない例
- 梅干しの種(今回の症例)
- 桃・杏・さくらんぼの種
- トウモロコシの芯
- 竹串、楊枝
- プラスチック片
- 石・小石
- ボタン・ペットボトルキャップ

● 危険な理由
- 表面が硬く、胃や腸で割れない
- 胃から腸へ移動し、空腸〜回腸で詰まりやすい
● 危険な大きさ
- 直径1.5〜2cm以上 → 小型犬だとほぼ詰まる
- 梅干しの種(1.5〜2cm) は小型犬で“典型的に危険”

胃の中に停滞して、腸の方に流れるのにある程度、時間がかかります。
直後に問題になることもありますが、
数週間、数ヶ月経過しても、胃に留まり続ける場合もあります。
何かの拍子に、十二指腸〜小腸に流れていくと、急に腸は細くなっていくので、
ここで詰まってしまうのです。

梅干しの種が胃の中に残っている場合、胃を刺激して明け方の嘔吐の原因になっている可能性があります。
そして、この種が胃から小腸へ流れた瞬間、
体重3kgのゆきちゃんの細い小腸では通過できず、腸閉塞を起こすリスクが非常に高いです。
腸閉塞になると、
開腹手術で腸の中に詰まった種を取り出さなければならなくなることもあります。


どうしたらいいでしょうか!?
検査
胃のなかに、梅干しの種が本当にあるのか。確認していきます。
腹部超音波検査

ユキちゃんの胃の中は、朝ごはんで満たされていて、確認できませんでした💦

胃のなかの異物を超音波検査で確認するときは、ごはんを我慢して胃のなかに何もない状態にしておくことをお勧めします☝️
レントゲン検査

ユキちゃんの検査では異物は確認されませんでした。
レントゲンでよく見える異⭕️
「重い・硬い・密度が高い」ものは基本的によく写る
→ 金属、石、砂、ガラス
見えない異物❌
→ 布、ゴム、プラスチック、ビニール、紐、木片
梅干しの種は 「写ることが多いが、必ずではない」 という中間的な位置づけです。
形が丸くて胃内容物に重なりやすく、見逃されることもあります。


明日、朝ごはんを我慢して胃のなかを空っぽにして来院してください。
そこで、梅干しの種が見つかったら、内視鏡で取り出した方が良いと思います。
翌日、絶食して再度、超音波検査
朝ごはんを我慢して、翌日また来院してもらいました。

再び超音波検査を行うと、胃の中に1.5cmくらいの異物が確認されました。
内視鏡にて異物摘出!
その日のうちに、ユキちゃんに全身麻酔下で、内視鏡検査が行われました。

梅干の種が確認され、無事に梅干の種が摘出されました。


ユキ、気をつけてあげなくてごめんね!

ユキちゃん、内視鏡検査お疲れ様!
ちゃんと気づいて動物病院に連れてきてもらって、
腸に詰まる前に梅干の種を摘出できて、本当によかったね!

夕方、ユキちゃんは麻酔が覚めて、元気に尻尾を振っています。
夕方、お母さんと一緒におうちに帰っていきました。

もし内視鏡で摘出できず、開腹手術になっていたら、命に関わる事態になっていた可能性があります。
さらに、退院までには3〜4日以上かかることもあります。
早めに対応できて、本当によかったです。
まとめ
犬の誤食はとてもよくあることですが、ある程度大きさのあるものは、症状が出るまでに時間がかかることがあります。
例えば、石、消しゴム、スーパーボール、桃の種、とうもろこしの芯などです。
場合によっては、数週間〜数ヶ月まったく症状が出ずに元気に過ごすこともあります。
しかし、異物が胃から小腸に流れて閉塞を起こすと、犬の状態は急変します。
何度も嘔吐を繰り返し、明らかに苦しそうな状態になり、緊急で開腹手術を行い、腸を切って異物を取り除く必要が出ることもあります。
もし飲み込む現場を見ていた場合は、獣医師に確認し、受診の必要があるか指示を仰ぎましょう。
梅干しの種を飲み込んでしまった、ポメラニアンのマメちゃんの一例。参考にしていただけましたら幸いです。



※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
Di Palma C., Pasolini M.P., Navas L., et al. “Endoscopic and Surgical Removal of Gastrointestinal Foreign Bodies in Dogs: An Analysis of 72 Cases.” Animals (Basel). 2022;12(11):1376. DOI:10.3390/ani12111376 PMC
Ellison G.W., Bright R.M., Huss B.T., et al. “Intestines / Enterotomy” in Current Techniques in Small Animal Surgery, 5th Edition. IVIS. ivis.org
中村 孝.「犬の異物による腸閉塞について」. 獣医畜産新報 (JVM), 1971.
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