犬の避妊・去勢手術の前に。乳歯や“でべそ”もチェックする術前検診のポイント

予防

ほとんど全ての愛犬たちの、最初の試練が避妊・去勢手術だと思います。

若い子なので、手術も大丈夫?よく行われる、安全な手術なの?

しかし、安全に実施されることは、何よりも大切なことです。

停留精巣があると、手術の手技が少し変わります。

また、乳歯の遺残腹壁ヘルニアがあれば、同時に処置することもあります。

今回は、手術前の確認ポイントと、同時に行う治療について、まとめました。

今日の症例

チワワのむさしくん、6ヶ月、男の子です。

今日は、去勢手術前の検診に来てくれました!

むさしくんは、

  • 停留精巣(左、鼠径皮下)
  • 上の左右、乳歯犬歯の遺残
  • 臍ヘルニア(腹壁に5mmくらい)

が見つかりました。

血液検査では、問題はありませんでした。

手術前の検診

♂ 精巣下降の確認

陰嚢の中に、ちゃんと2つの精巣があることを確認します。

停留精巣って❓

実は、犬の男の子の精巣は、生まれてきた時はお腹の中にあります。
だいたい生後1ヶ月くらいで、鼠径部を通り、陰嚢の中に降りてきます。
精巣がお腹の中や鼠径部の皮下に留まり、陰嚢にない状態が、停留精巣(陰睾)です。

お腹の中にある停留精巣だと、開腹手術になります。

実は停留精巣は、将来的に精巣の癌になるリスクが高いです。

精巣が陰嚢の中になく、お腹の中や鼠径部に留まっていると、精巣は常に体温で温められた状態になるのが癌になりやすい原因です。
その上、お腹の中で癌になっても見えないので、気づかず、発見が遅れてしまいます。
停留精巣の子は、特に、去勢手術が推奨されます。

♀ 発情の有無

だいたい生後7ヶ月を過ぎたあたりから、初めての発情が始まります。
この時期は、子宮に血流が集まって、腫れてきます。

この時手術を行うと、傷が大きくなり出血量も増えてしまいます。

初回発情が始まってしまったら、発情終了後2、3ヶ月空けて手術することをお勧めしています。

乳歯の生え変わりの確認

犬の乳歯は、だいたい5ヶ月くらいで抜け始めます。

小型犬に多いですが、乳歯が残った状態で永久歯が並んで生えるのを乳歯遺残と言います。

乳歯遺残では、歯並びの問題や、並んで生えた歯の隙間に歯垢が溜まりやすくなります。

避妊・去勢のチャンスに一緒に乳歯を抜歯します。

腹壁ヘルニア(臍ヘルニア、鼠径ヘルニア)

生まれつき、腹壁に穴が空いていて、出べそのようになったり、鼠径部がぽっこり膨らんで見える子がいます。

多くは腹腔内の脂肪がはみ出している状態ですが、将来的に穴が開き、内蔵(腸や膀胱など)が出てきて挟まる(嵌頓)可能性もあります。

この機会に、一緒に腹壁の穴を閉じてしまいます。

血液検査

元気な若い子でも、中毒による肝障害や腎障害、

まれに、生まれつきの肝臓の異常(門脈シャントや門脈低形成など)や、腎臓の機能低下が見つかる子もいます。

異常が見つかった時は、治療が優先され、手術が延期されることがあります。

若い子は血液検査をする機会はあまりないので、ここで一度、血液検査をすることで、愛犬の状態を知るチャンスと言えます!

症例:むさしちゃんの去勢手術の場合

手術当日は、朝ごはんは我慢してきてもらいます。

  • むさしちゃんは、去勢手術では鼠径部に停留精巣があるので、
    手術の傷は2カ所(陰茎上と、左鼠径部)になりました。
  • 臍ヘルニアの整復も同時に行いました。おへその上にも2cmくらい傷ができました。
  • 上あごの乳歯の犬歯の抜歯も実施しました。

手術後の傷の保護について

手術の傷を保護する、術後服を着用します。
抜糸まで、術後服だと着たまま普段の生活ができるので快適でお勧めです。

そして、レオタードみたいでとても可愛いです。

手術後の食事について

ご飯について手術後は少し太りやすくなります。食事の量には気をつけて、計量して与えるのがお勧めです。

手術後の子用のご飯も活用すると良いと思います。

夕方、退院です。

お迎えに来てくれて、むさしちゃんはしっぽをブンブン、大喜びです!!

本当にたくさん、よく頑張ったね!!

ご家族も、手術が終わってほっと一安心の様子です。

抜糸は7〜14日後です。
お臍と、鼠径部と、陰茎上の合計3カ所。

また元気に、動物病院に来てくださいね!!

まとめ

去勢手術や避妊手術は、一般的によく行われる手術ですが、

手術前の検診では、問題なく手術ができるか、同時にできる処置はないか、
慎重に計画していきます。

大切な家族になったばかりの愛犬を、これから長い間、元気に楽しく過ごす日々のため、手術を受けに連れてきてくれているのです。

わんちゃんたちにとっても、最初の試練です。

元気な子を元気なままお家にお返しできるよう、我々獣医師も、気を引き締めて取り組んでいます!

動物病院に来てくれた去勢手術の1例ですが、参考にしていただけましたら幸いです。

コメントやご相談もお待ちしています。

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