ワクチンに来たら心雑音が… 偶然の検診で早期発見できた犬の話

ワクチン

「うちの子、元気だから大丈夫」と思っていても、実は気づきにくい変化が隠れていることがあります。
心臓病は特に初期症状が出にくいため、毎年のワクチンやフィラリア予防のついでに行う健康チェックがとても大切です。今回は、そんな“ついでの検診”で心臓の異常が見つかったユメコちゃんのお話です。


症例:チワワのユメコちゃん

チワワのユメコちゃん。9歳の女の子です。

お姉さん
お姉さん

父が飼っていたのですが、具合が悪くなって、私が引き取りました。

毎日元気で、食欲もあります。今日は狂犬病予防ワクチン接種、よろしくお願いします。

私(獣医)
私(獣医)

こちらこそ、よろしくお願いします!ユメコちゃんも頑張ろうね!
まずは身体検査を行いますね。


🩺 ワクチン前の身体検査で確認する項目

ワクチンは命に関わる感染症の予防に最も効果的な手段です。
ワクチン自体も大切ですが、動物病院では接種前に必ず身体検査を行います。
ワクチンはまれに体調を崩すことがあるため、その日の体調がワクチンに適しているかどうかを確認するためです。

① 全身状態の確認

  • 元気・食欲・排便排尿の様子
  • 前回のワクチン後の副反応の有無

② 体重・体温

  • 成長や体重の変化を把握
  • 発熱がないかチェック
私(獣医)
私(獣医)

体重の変化は、とても大切なサインです。
毎日一緒に過ごしていると、意外と気づきにくいこともあります。

もし体重が増えてきている場合は、ごはんの量や内容の見直しおやつの与え方の調整をする良いきっかけになります。

反対に、体重が減っている場合は、食事量が足りていないだけでなく、病気のサインが隠れていることもあります。

③ 心臓・肺の聴診(心拍数・呼吸数)

  • 雑音や不整脈、呼吸音の異常がないか

④ 皮膚・被毛・リンパ節

  • 皮膚炎、しこり、脱毛
  • リンパ節の腫れ

⑤ 目・耳・鼻・口のチェック

  • 目や耳の異常
  • 口腔内の炎症・歯石・歯肉炎

⑥ お腹(腹部)

  • しこり、痛み、臓器の腫れ
私(獣医)
私(獣医)

お腹を触診することで、お腹の中のしこりや異物が見つかることがあります。
触るだけでも、臓器の腫れや痛みなど、さまざまな異常に気づくことができます。

⑦ 姿勢・関節の状態

  • 腰、首、足の関節の痛みや腫れの確認
  • 筋肉量の確認

⑧ 予防歴の確認

  • ワクチン、フィラリア、ノミダニ予防などの予定と状態
私(獣医)
私(獣医)

狂犬病予防注射や混合ワクチン、フィラリア予防など、毎年必要な予防に抜けがないかもあわせてチェックします。💉

⬇️ワクチンの副作用についてはこちら🐶


ユメコちゃんの身体検査の結果 🐶

  • 体重減少(BCS4)
  • 歯石の付着と歯肉炎
  • 膝蓋骨脱臼(グレード2)、痛みなし
  • 心臓の雑音
私(獣医)
私(獣医)

体重減少はしていますが、ボディコンディションスコア(BCS)は4です。
まだ少しぽっちゃりしていますね。

お姉さん
お姉さん

父は、おやつをあげすぎていたんだと思います💦
引き続き、食事量は気をつけていきますね!

犬のボディコンディションスコア(BCS)は、犬の太り具合や痩せ具合を評価する指標で、主に5段階(または9段階)で判断します。
診察でもよく使われる、とても大事な健康チェックです。

BCS1:やせすぎ

  • 肋骨・背骨がはっきり見える
  • 触ると骨ばっている
  • 脂肪がほとんどない

BCS2:やや痩せ

  • 肋骨は簡単に触れる
  • 腰が強くくびれる

BCS3:理想(標準)

  • 肋骨は“軽く触れる”が見えすぎない
  • 上から見ると自然なくびれ
  • 横から見るとお腹の引き締まりがある

BCS4:やや太り気味

  • 肋骨が触りにくい
  • くびれがほとんどない

BCS5:太りすぎ(肥満)

  • 肋骨が触れない
  • くびれが完全にない
  • お腹が丸く張っている

✨ポイント

  • 見た目+触診で評価する
  • 定期的にチェックすると、体重変化を見逃しにくいです。
私(獣医)
私(獣医)

膝の関節は左右とも膝蓋骨脱臼のグレード2ですが、現時点では痛みは見られません。
この状態であれば、無理な運動を避けながら経過観察していきましょう。
あわせて、体重管理もとても大切です。

膝のお皿(膝蓋骨=パテラ)が、
本来の溝からズレたり外れたりする状態のことです。

  • 小型犬に多い
  • 片足を浮かせてケンケンしたり、歩き方が変になることがある
  • 外れたままにしておくと、関節が変形し痛みが出ることも

軽度なら経過観察で済むことが多いですが、
重度では手術が必要になる場合もあります。

私(獣医)
私(獣医)

薬や生活習慣の改善で様子を見るか、手術で整復するかは、グレードだけで決まるものではありません
痛みの有無や歩き方の変化など、日常生活の質(QOL)がどれだけ落ちているかを基準に判断します。

グレード1(軽度)

  • 通常は外れていない
  • 触ると外れるが、すぐ自然に戻る
  • 痛みや跛行はほとんど出ない

グレード2(中等度)

  • 時々外れて歩き方が変になることがある
  • 触すと外れたり戻ったり
  • 繰り返すと関節が変形していく可能性あり

グレード3(やや重度)

  • 常に外れている
  • 手で押すと一時的に戻るが、すぐにまた外れる
  • 跛行・歩行異常が明らか

グレード4(重度)

  • 常に外れたまま
  • 手で戻すこともほぼできない
  • 脚が伸びにくく、歩行困難
  • 多くの場合で外科的治療が必要

⬇️体重管理のご飯はこちら🐶 ダイエットのご飯でも、好きなだけ食べていたら太っちゃうので、しっかり測って与えることをお勧めします🐶💦


心臓の検査 🐶

心音は正常は、トクッ、トクッですが、
ユメコちゃんの心音はザッ、ザッになっていました。

私(獣医)
私(獣医)

聴診器で心臓の音に雑音が聞こえた場合でも、それだけで病気と診断することはできません
正確な状態を把握するために、**レントゲン検査と心臓の超音波検査(エコー)**で、現在の心臓の大きさや動き、血流を確認することをお勧めします。

お姉さん
お姉さん

心臓が悪いんですか?それは気が付かなかったし、心配です。
検査してください。

レントゲン検査 🐶

レントゲンは「心臓の大きさ」と「肺の状態」を見るのに最も重要な検査です。
心臓の病気が進行すると、心臓そのものの形や大きさが変化していきます。

超音波検査(心臓)🐶

超音波検査は、
「心臓がどう動いているか」
「どれだけ逆流しているか」

を詳しく調べるための、最も重要な検査です。

私(獣医)
私(獣医)

心臓の弁膜の一部に変性が見られ、軽度の血液の逆流が確認されました。
そのため、僧帽弁閉鎖不全症の可能性が疑われます。


🐶 犬の僧帽弁閉鎖不全症とは?

僧帽弁閉鎖不全症は、
心臓の弁(僧帽弁)がしっかり閉まらなくなる病気です。

その結果、心臓から送り出されるべき血液の一部が
**逆流(逆戻り)**してしまい、心臓に負担がかかります。


🐾 特徴

  • 小型犬・シニア犬にとても多い
  • 初期は無症状のことが多い
  • 聴診で「心雑音」が見つかることで気づくことが多い

🩺 主な症状

  • 咳が増える
  • 運動すると疲れやすい
  • 呼吸が早い・浅い
  • 食欲低下・元気がない(進行時)

🧪 確認に必要な検査

  • レントゲン検査:心臓や肺の状態を見る
  • 心臓エコー:逆流の程度、心臓の動きを評価
  • 血液検査:心臓関連の数値(NT-proBNPなど)

💊 治療の基本

  • 内服薬(血管拡張薬、利尿薬など)で心臓の負担を減らす
  • 食事、体重管理
  • 定期的な検査で進行のチェック
私(獣医)
私(獣医)

飲み薬での治療は、心臓の動きを助けて負担を軽くすることが目的であり、
残念ながら 心臓を元の状態に治すものではありません。

一方で、心臓の手術を選択する場合もありますが、
特殊な設備や高度な技術が必要になります。
そのため、手術をご希望されるご家族には、心臓専門の病院をご紹介しています。🏥

⬇️犬の咳、僧帽弁閉鎖不全症についてはこちらも読んでみてくださいね🐶


ユメコちゃんの治療について🐶

私(獣医)
私(獣医)

ユメコちゃんの心臓は、レントゲン検査で心拡大は見られず、
超音波検査でも血流の異常は軽度でした。
ACVIM分類では ステージB1 にあたります。

この段階では、まだお薬などの治療は必要ありません。
今後も定期検診で状態を確認しながら様子を見ていきましょう。

ACVIM分類(ステージ分類)は、僧帽弁閉鎖不全症の重症度を評価し、治療方針を決めるための指標です。

🔵 ステージA(リスクあり)

  • まだ病気ではない
  • ただし「なりやすい犬種」
    (例:キャバリア、トイプー、ポメ、マルチーズなど)
  • 特に症状なし
    毎年の健康診断で経過観察

🟡 ステージB1(初期・拡大なし)

  • 心雑音はある
  • でも 心臓はまだ大きくなっていない
  • 無症状
    治療はまだ不要、定期検査で様子見

🟠 ステージB2(中等度・心拡大あり)

  • 心雑音+ 心臓が大きくなってきた
  • まだ症状はない
  • 咳・疲れやすさが軽く見られることも
    ここから薬が推奨される

🔴 ステージC(症状あり・治療が必要)

  • 「心不全の症状」が出る
    • 呼吸が早い
    • 息が苦しそう
    • 食欲低下
  • 治療ですっかり良くなり、普段の生活に戻る子も多い
    利尿薬+血管拡張薬など複数の薬で管理する

⚫ ステージD(重症)

  • ステージCより進行した状態
  • 通常の治療では改善が難しい
  • より強い薬の調整や入院治療が必要なことも
    専門的な治療と慎重な管理が必要

お姉さん
お姉さん

それほど重くなくて、よかったです〜💦気づいてあげられなくてごめんね、ユメコ!

私(獣医)
私(獣医)

心臓の病気は、進行しないとご家族が気づくのは本当に難しいものです。
今回、検診に来てくれたおかげで、早い段階で見つけることができました。

よかったね、ユメコちゃん!

今回、初めて僧帽弁閉鎖不全症が見つかりましたので、
進行の有無を確認するためにも、まずは1か月後に再診に来ていただくことをお勧めします。

さて、今日は狂犬病予防ワクチンでしたね。
体調も問題なく、接種可能ですので注射をしていきましょう。

(🐶やっぱり注射するのか〜〜💦💦)

お姉さん
お姉さん

検査も注射も本当によく頑張ったね、ユメコ。
これからもずっと一緒にいたいから、治療も一緒にがんばっていこうね。
また再診でお世話になりますので、よろしくお願いします。


まとめ 🌼

犬には、毎年の狂犬病予防注射や混合ワクチン、フィラリア予防などで病院を受診する機会があります。これらの予防自体もとても大切ですが、その際に行う身体検査は、ご家族が気づきにくい体調の変化を見つけるうえで非常に重要です。


特に心臓の病気は、初期には症状がほとんど見られず、気づいた時にはかなり進行していることも少なくありません。だからこそ、早期発見がこれからのワンちゃんとの生活を守る鍵になると感じながら診察にあたっています。

ユメコちゃんのように、症状がない早い段階で病気を見つけられるのが検診の最大の価値です。みなさまの参考になれば幸いです。

※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。

参考文献

獣医循環器学編集委員会編. 獣医循環器学 第2版. 文永堂出版, 2021.

Atkins C, et al. Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Canine Chronic Valvular Heart Disease (ACVIM Consensus Statement). J Vet Intern Med. 2009;23(6):1142–1150.

Keene BW, et al. ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs. J Vet Intern Med. 2019;33:1127–1140.

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