混合ワクチン接種は、私たちの病院では
1年に1回の追加接種をお勧めしています。
混合ワクチン、それ自体ももちろん、
重要な病気の予防に非常に大切です。
その上、『年に1回、病院に訪れる』
ということが、
体調の変化に気づくチャンスです!
病気の発見につながることもあります。

チワワのユメコちゃん。9歳の女の子です。
とっても元気で、食欲もある。
今まで大きな病気はしたことありません。
ご家族のお母さんも、今日もワクチン頑張ろうね!とにこにこしています。
〜 診察 〜
混合ワクチンの診察でも、注射だけでなく、
しっかり身体検査を行います!
ご家族が気づいていない、
問題が起きていないかな?
体重は・・・
去年と同じ。体格は、少しぽっちゃりだけど、問題なし。
体重の変化は、とても大切です。
毎日一緒に過ごしているご家族は、
犬の体重の変化に気づくことが
難しいことがあります。
太ってきていたら、お食事の量や内容の検討や、おやつの見直しをするきっかけになります。
逆に痩せていたら・・・
食事が不足しているか、病気のサインの可能性も考えます。

口の中・・・
歯石が溜まって、歯肉炎を起こしています。
“そういえば、口の臭いが気になってきたなあ”、とお母さん。
膝の関節・・・
左右とも、膝蓋骨脱臼のグレード2。特に痛みは出ていない様子。
これなら、無理な運動を避けるようにして、経過観察で問題なさそう。
皮膚を触ると・・・
お腹に、3mmくらいのできものが、2つ。
せっかくなので、細胞診もしていきますか?
と提案しました。
細胞診とは、皮膚などのできものを
細い針で、チクチクと刺して、
スライドガラスに薄く伸ばして、
特殊な染色をして、
顕微鏡で確認します。
とっても簡単で、犬はほとんど痛がることはありません。
その場で簡易的に、
腫瘍か、炎症などその他か、
速やかに推測するのに優れています。

結果は・・・乳腺由来の細胞が、まとまって採取されていました。
ユメコちゃんは、未避妊の女の子。
乳腺腫瘍の疑い、です。
犬の乳腺腫瘍は、
良性も、悪性もあります。
細胞診では、良性、悪性の確定をすることはできません。
確定診断は、手術をして、切り取った組織を病理の検査に提出することでできます。
なお、乳腺腫瘍の発生は、
性ホルモンと関連があり、
2回目の発情の前に避妊手術をした子は、乳腺腫瘍の発生をかなり低く抑えることができます。
そして聴診器をあてると・・・
小さな、心臓の雑音が聞こえます。

心音は正常は、トクッ、トクッですが、
ユメコちゃんの心音はザッ、ザッになっていました。
せっかくなので、心臓の超音波検査をしていきますか?と提案しました。
心臓を超音波検査で見てみると、心臓の弁膜の一部が変性して、血液の逆流が軽度に起きていました。
僧帽弁閉鎖不全症、の疑いです。

僧帽弁閉鎖不全症は、小型犬のシニアでは良く見られる、犬の心臓の病気です。
年齢を重ねることで、心臓の逆流防止弁が変性して、血液の逆流が起様々な程度で生じます。
初期の段階では、聴診器を当てて小さな雑音がわかるのみで、
ほとんど無症状です。
進行すると、咳や、運動不耐性、
さらに悪化すると肺に水が溜まる、
肺水腫を引き起こし、
命に関わる問題となります。
飲み薬での治療は、心臓の動きを助け、負担を軽減することが目的で、
心臓を元の状態になおす、というものでは、残念ながらありません。
なので、徐々に病状が進行し、
お薬の量が増えていくことが多いです。
心臓の手術をする、という選択肢もあります。
特殊な機械が必要で、一般的な
町の動物病院で行うことができる
手術ではないので、診察をご希望の
ご家族には、心臓の専門の動物病院を紹介させていただきます。
ユメコちゃんはまだ、お薬を飲んで治療をするほど進行はしていない様子です。
この段階では、ほとんど無症状。
ご家族が気づくのは本当に難しい状態です。
〜 診断 〜
- 乳腺腫瘍(良性、悪性は不明)
- 僧帽弁閉鎖不全症(グレード2、経過観察)
- 膝蓋骨脱臼(グレード2、経過観察)
- 歯肉炎(できればスケーリング)

〜 治療について 〜
心臓の状態は、要経過観察。
まだ、心臓のお薬を飲む段階ではありません。
しかし今回見つかったのが初めてなので、
進行が早くないかどうか、
まずは1ヶ月くらいで再確認した方が良いと
思われます。
そして乳腺腫瘍。
今はとても小さいけど、現時点で、
良性、悪性の判断はできません。
手術で切除して、病理の検査で調べるのが良いと思います。
今のユメコちゃんが、
手術可能な状態かどうか、
他に病気がないかを調べるため、
後日、追加の検査をお勧めします↓
血液検査、胸とお腹のレントゲン検査、腹部超音波検査、尿検査、心電図など
・・・お母さん。
“ユメコは病気ひとつしない、元気な子だと思ってたけどな〜“ と、がっかりしています。

でも、まだまだ一緒にいたいから・・・
“家族と相談して、まずは検査、受けてみようと思います!“
と、おっしゃっていました。
後日、検査の予約を取って、
その日は、朝ごはんだけ我慢して
連れてきてくださいね!と
お話ししました。
ユメコちゃん、この日はとりあえず、
混合ワクチンをチクっと頑張りました。

ワクチン注射直後、15〜20分くらいは、
急に立てなくなる、吐くなどないか、
特に気をつけて、
注射してから1、2日は、だるくなったり、
打ったところが痛くなるなどがないか、
気をつけて、無理せず過ごしてくださいね。
〜 まとめ 〜
毎年の混合ワクチンでの来院で、病気が見つかったチワワのユメコちゃんの1例でした。
毎年、ワクチンやフィラリア予防など、予防に連れてきてくださるご家族は素晴らしいです✨
その、大切なワンちゃんの健康を支える意味でも、予防で来てくれた子たちの身体検査は
見落としがないよう、
ちょっと気合いを入れて行なうように
しています。
(たとえ一瞬、悲しませることになっても(泣))
参考にしていただけましたら、幸いです。

コメントや、ご相談もお待ちしています。


コメント