「最近、歩くのが遅くなった」「立ち上がるのに時間がかかる」
高齢犬では、歩き方の変化に気づくことが少なくありません。年齢によるものと思われがちですが、関節や神経の病気、筋力の低下が関係している場合もあります。
この記事では、高齢犬が歩きにくくなる主な原因を「関節」「神経」「筋力低下」の3つの視点から整理し、受診の目安や注意したいポイントについて、獣医師の立場からわかりやすく解説します。
高齢犬が歩きにくくなる主な原因 🐾

高齢犬の歩きにくさは、「年のせい」と思われがちですが、さまざまな原因が考えられます。
主に、関節のトラブル・神経の異常・筋力の低下の3つに分けて考えると整理しやすくなります。

実際には原因1つではなく、いくつかの要因が組み合わさって歩きにくくなることが多いです。
歩き方から考えられる病気のサイン 💡

- 後ろ足が弱い・滑りやすい
- 立ち上がりにくい
- ふらつく
- 後ろ足がクロスする
- 腰が曲がっている
- 階段を登らなくなる
- 歩くスピードが遅くなる
- 散歩を嫌がる
- 歩き始めがぎこちない
- 足を引きずる

痛みや神経の麻痺、筋力の低下があると、後ろ足に力が入りにくくなり、滑りやすくなったり、踏ん張りがきかなくなることがあります。
① 関節の病気が原因の場合

加齢に伴い、関節の軟骨がすり減ることで痛みや動かしにくさが生じます。
- 変形性関節症
- 靱帯疾患 など
⬇️ 前十字靭帯断裂の症例についてはこちらも参考にしてください。 🐶
② 神経の病気が原因の場合

脊髄や神経の病気があると、足に力が入りにくくなったり、ふらついたりすることがあります。
椎間板疾患などでは、急に歩き方が変わることもあります。
- 椎間板疾患
- 脊髄・末梢神経の異常
⬇️ 椎間板ヘルニアの症例についてはこちらも参考にしてください。🐶
③ 筋力低下によるもの 💪

病気がなくても、加齢により筋肉量が減ることで、歩行が不安定になることがあります。
特に後ろ足の筋力低下は、立ち上がりにくさや転びやすさにつながります。
▶ 多くの高齢犬では・・・

①、②(関節・神経の痛みや障害)
↓
動かなくなる・使わなくなる
↓
③ 筋力低下が進行する

という変化が起こることが多いです。
- 痛い → 動かない
- 動かない → 筋肉が落ちる
- 筋肉が落ちる → 姿勢が保てず腰が曲がる
この悪循環が、高齢犬ではよくみられます。
⬇️ 変形性関節症から、腰が曲がって歩きにくくなった症例はこちらも参考にしてください。🐶
受診の目安(様子見してよい?)

高齢犬の歩きにくさは、軽い筋力低下などで一時的にみられることもあります。
以下のような場合は、短期間様子を見ることも一つの選択です。
様子を見てもよい場合

- 動きは少し鈍くなったが、食欲や元気はある
- 症状が軽く、数日で改善してきている
- 歩きにくさが一時的で、悪化していない
早めに受診したほうがよい場合

一方で、次のような場合は早めの受診をおすすめします。
- 歩きにくさが徐々に悪化している
- 立ち上がれない、転ぶ、ふらつきが目立つ
- 明らかな痛みがあり、触ると嫌がる
- 後ろ足に力が入らない、引きずるように歩く
- 食欲低下や元気消失など、他の症状もみられる

特に、急に症状が出た場合や、日ごとに状態が変わる場合には、早めに動物病院を受診しましょう。
「年のせいかな?」と迷ったときこそ、相談していただくことで安心につながります。
動物病院での検査・治療 📝

動物病院では、まず歩き方の変化やご自宅での様子について詳しくお話を伺い、全身状態を確認します。そのうえで、必要に応じて検査や治療を行います。
神経学的検査とは?

神経学的検査は、脳・脊髄・神経の働きに異常がないかを確認するための検査です。
歩き方の異常やふらつき、後ろ足に力が入りにくい場合などに行います。
どんなことを確認するの?
- 歩行の様子(ふらつき・足の運び方)
- 立ち直り反応(体勢を立て直せるか)
- 足先の感覚や反射の反応
- 痛みへの反応
これらを確認することで、どの部位の神経に異常がある可能性が高いかを推測します。

神経学的検査は、体を軽く動かしたり触ったりして、反応を確認する検査です。
神経学的検査の結果をもとに、
レントゲン検査やMRI検査など、次に必要な検査を判断します。
画像検査(レントゲン検査など)

高齢犬で腰の痛みが疑われる場合、レントゲン検査は原因を探るための基本的な検査です。

- 背骨や関節の変形(変形性関節症)
- 椎間板の変化や幅が狭くなっていないか
- 骨折や腫瘍などの骨の異常
といった 骨や関節の変化 を確認することができます。
一方で、神経や椎間板そのもの、筋肉の状態 までは詳しく分からないため、
症状によっては他の検査(CT、MRIなど)を検討することもあります。


CTやMRI検査は神経の状態を詳しく確認できる検査ですが、全身麻酔が必要で、対応できる動物病院も限られています。高齢犬では体への負担も大きくなるため、症状や全身状態に応じて検討される検査です。
治療の考え方

原因に応じて、痛みを和らげる治療、関節や神経の負担を減らす治療を行います。
内服薬やサプリメント、生活環境の調整、リハビリテーションなどを組み合わせて治療を進めることもあります。

歩きにくさの原因は一つとは限らないため、検査結果や年齢、生活環境を踏まえ、無理のない治療を提案します。
お薬について💊

痛みや不調をできるだけ和らげ、日常生活の質を保つことが目的になります。
副作用に十分配慮しながら、その子の状態に合わせて、長く続けられる治療を検討していきます。
① NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)💊

- 炎症と痛みを抑える
- ⚠️ 胃腸障害・腎臓への影響が出ることがあるため、注意が必要
- 基本的に1日1回飲む薬や、2週〜月1回など長期で効く薬もあります。

NSAIDsは、人でいうロキソニンなどと同じ種類のお薬ですが、
⚠️人用の痛み止めを犬に使うと、重篤な副作用が出ることがあります。
必ず獣医師が処方した犬用の薬を使用してください。
② 鎮痛補助薬(神経・慢性痛向け)

NSAIDsだけで不十分な場合に併用します。
- 神経痛や慢性的な痛みに使用
- 眠気が出ることがある
👉 関節だけでなく、神経の関与が疑われる場合にも使われます。
③ 注射薬(持続型鎮痛)

- 1回の注射で効果が数週間続くタイプも
- 内服が難しい犬に向いています
※ 症例により適応が限られます。
④ サプリメント

- 関節の健康維持を目的
- 一般的に副作用は少なく、日常的に使いやすい
⬇️ 動物病院でも紹介されているサプリメントです。
高齢犬や腎機能が低下している子でも比較的使いやすく、日常的なケアとしておすすめされることが多いものです。🐶
大切なポイント☝️
- 痛み止めは症状や年齢、持病に合わせて選択します
- 「ずっと同じ薬」ではなく、調整しながら使うことが多いです
- 痛みを我慢させないことが、筋力低下の予防にもつながります

お家で気をつけたいこと 🏠

散歩について🐾

痛みが強い時は無理をせず安静を心がけ、
症状が落ち着いている時には、完全に動かさないのではなく、
体の状態に合わせた適度な運動を取り入れることが大切です。
痛みが強い時 🔥

- 基本は安静(散歩は休む、短時間のトイレのみ)
- 痛み止めを利用する
- 段差・ジャンプ・階段はできるだけ避ける
👉「動かさないこと」よりも
**「痛みを悪化させないこと」**が大切です。
痛みが落ち着いている時 ☀️

- 無理のない範囲で平坦な道を短時間の散歩
- 急な方向転換やダッシュは避ける
- 調子が悪そうな日は無理しない

散歩をまったく控えてしまうと筋力が落ちてしまうため、様子を見ながら、負担にならない程度で続けることが大切です。
⬇️ 腰につけるハーネスは、立ち上がりにくい子や後ろ足が不安定な子の
お散歩の補助として、とても役立ちます。🐶
室内環境の工夫 🏠

- フローリングは滑り止めマットを敷く
- ソファなどはスロープをつける
- 寝床は立ち上がりやすい高さ・硬さに
⬇️ 筋力が落ちてくると、踏ん張りがききにくくなり、
フローリングなどで滑ってしまうことがあります。
床環境を工夫することで、転倒予防や生活の質の向上につながります。🐶
⬇️ 肉球に貼る滑り止めシールも、筋力が低下した高齢犬にはお勧めです。🐶
まとめ 🌼
高齢犬の歩きにくさは、加齢による変化だけでなく、関節や神経の病気、筋力の低下など、さまざまな原因が関係しています。
歩き方の変化や、できていた動作を嫌がるようになった場合は、体からのサインかもしれません。
軽い変化で元気や食欲が保たれている場合は、無理のない範囲で様子を見ることもできますが、症状が続いたり悪化する場合には、早めの受診がおすすめです。
完全に動かさないことは筋力低下につながるため、負担の少ない散歩や生活環境の工夫も大切です。

「年のせいかな?」と迷ったときこそ、早めに相談することで、愛犬に合ったケアや治療につながります。
※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
日本獣医師会雑誌
高齢犬における変形性関節症・運動器疾患の診断と管理
(日本獣医師会雑誌/総説・症例報告)
獣医内科学アカデミー編
『犬と猫の内科学 第3版』
運動器疾患(変形性関節症、椎間板疾患、神経疾患)の章
(文永堂出版)
Merck Veterinary Manual(日本語版)
犬の変形性関節症、椎間板疾患、慢性疼痛管理
(オンライン獣医マニュアル)



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