猫の甲状腺機能亢進症は、シニア期に多くみられる内分泌疾患です。
内服薬による治療が一般的ですが、すべての猫にとって続けやすい治療とは限りません。
今回ご紹介するのは、投薬が難しく、外科手術を選択した猫のサチコちゃんの一例です。
治療選択の考え方や、術後の経過について解説します。
症例:猫のサチコちゃん🐱
雑種猫のサチコちゃん、9歳の女の子です。
先週、甲状腺機能亢進症と診断され、
まずは内服薬💊による治療を開始しました。
今日は、その1週間後の再診です。


サチコ、薬が大っ嫌いで、飲ませることが本当に難しかったです。
なんとか薬を口に入れても、ヨダレと泡でブクブク出てくるし、私の顔を見ただけで逃げるしで、もう心が折れました・・・


それは、大変でしたね・・・💦
猫の甲状腺機能亢進症とは?🐾

猫の甲状腺機能亢進症(しきょうぶにんぷつきのうこうしんしょう)は、
頸部(くび)の甲状腺が大きくなり、ホルモンを過剰に出してしまう病気です。
加齢した猫でよく見られ、体重減少、嘔吐、落ち着きのなさ、心拍数増加などの症状が現れます。
甲状腺ホルモン(T4)とは?

甲状腺で作られるホルモンで、体の代謝を調節します。
過剰に分泌されることで体重減少や心拍数の増加などを引き起こします。
主な症状

- 食欲があるのに体重が減る
- よく鳴く・落ち着きがない
- 多飲多尿
- 嘔吐・下痢
- 被毛がボサボサになる
- 心拍数が早い・血圧が高い

初期は病気と思わず、「元気すぎる高齢猫」に見えることもあります。
原因

- ほとんどが甲状腺の良性腫瘍(過形成・腺腫)
- 悪性腫瘍(がん)はまれ
診断方法🩸

血液検査による甲状腺ホルモン(T4)測定と、
症状の組み合わせで行います。

血液検査(T4)の高値に加え、
痩せてきている、よく吐く、瞳孔が開いている、心拍が早いといった症状を総合的に判断して診断します。
治療方法💊

主に、以下の4つの方法があります。
- 内服薬(甲状腺ホルモン抑制薬)💊
- 療法食(ヨウ素制限食)🍽️
- 手術(甲状腺摘出)✂︎
- 放射性ヨウ素治療(実施施設は限られる)☢️

加えて、心臓🫀や腎臓の病気を併せ持っていることがあるため、
治療の前後での評価が重要です。

放置するとどうなる?

- 心臓病・高血圧
- 失明(網膜剥離)
- 体力低下・寿命短縮
→ 早期発見・治療で予後は良好です。
甲状腺機能亢進症で、飲み薬が難しい場合は? 💊


飲み薬が難しい猫は、決して珍しくありません。
内服薬や療法食は、甲状腺そのものを治す治療ではなく、状態を維持するための治療です。そのため、基本的に生涯続ける必要があります。

猫と飼い主さんのお互いに負担の少ない方法を、探していくことが大切ですね。
投薬の工夫をする 💊
おやつ感覚で投薬することができれば、毎日の負担が少なくなります。
おやつが好きな子には、このような製品を利用すると投薬のストレス軽減に役立ちます。
療法食 🍽️

甲状腺ホルモンの材料となるヨウ素を厳しく制限した食事です。
他の食事と併用できず、生涯継続が前提です⚠️。
甲状腺を外科的に摘出する ✂︎

猫の甲状腺は、頸部に左右1対、合計2つあります。
外科手術は、腫大した甲状腺を摘出して根治を目指す治療です。
ただし麻酔や合併症のリスクを伴うため、腎臓・心臓の評価をしっかり行うことが重要です。


サチコはまだ9歳で、飲み薬、療法食による治療は今後も長く続くことになります。
そこで、将来を見据えて手術という選択肢を検討しています。

わかりました!外科手術、検討していきましょう。
甲状腺機能亢進症の、外科手術について ✂︎
メリット

- 甲状腺ホルモン過剰による症状の速やかな改善
→ 体重減少、頻脈、高血圧の改善 - 生涯投薬が不要になる可能性がある
→ 完全切除できれば根治が期待できる - 病理検査により確定診断ができる
→ 良性/悪性の判定、今後の治療方針に重要 - 内科治療の副作用を回避できる
→ 嘔吐、食欲不振、肝障害、皮膚の痒みなどを回避

投薬などを行わない、甲状腺機能亢進症を発症する以前の生活に戻ることができる可能性があります。
デメリット

- 侵襲性がある(全身麻酔が必要)
→ 高齢猫・心疾患・腎疾患がある場合はリスクが高い - 費用がかかる
→ 手術・麻酔・入院・術前検査を含めると高額になりやすい - 術後の甲状腺機能低下症のリスク
→ 特に両側摘出後に起こりやすく、
生涯ホルモン補充が必要になることがある - 低カルシウム血症のリスク
→ 上皮小体(副甲状腺)障害による
震え・痙攣など(一過性〜持続性) - 再発の可能性
→ 異所性甲状腺組織や不完全切除の場合

片側を切除することで、逆に甲状腺ホルモンが不足し、体調に影響が出ることがあります。
また、手術時に正常だった反対側の甲状腺や、異所性(別の場所に存在する)甲状腺が、後に異常を起こす可能性もあります。
その場合、再び投薬などによるホルモンのコントロールが必要になることがあります。

手術が適応になる主なケース

① 甲状腺腫瘤が局在しており、外科的切除が可能な場合
- 画像検査(触診・超音波)で、大きくなった甲状腺が確認され、局在が明確
- 周囲組織への広がりが少ない

猫の甲状腺機能亢進症の多くは良性腺腫ですが、転移などにより病変が広がっている場合には、手術が適応とならないことがあります。
② 内科治療が継続できない場合

- 抗甲状腺薬で
- 嘔吐・食欲不振・肝障害・血球減少・皮膚の痒み、などの副作用が出る
- 投薬が困難(強い投薬ストレス)
- 療法食を食べない(好みの問題、多頭飼育など)
③ 全身状態が安定している猫

- 重度の心疾患、腎疾患がない
- 麻酔リスクが許容範囲
外科手術へ 🐾

後日、サチコちゃんは、外科手術を実施しました。


サチコちゃんの、問題となっていた左側の甲状腺の摘出手術が、無事に終わりました。

無事すんで、ホッとしました!よくがんばったね、サチコ!

(がんばったにゃ〜🐱💦)

これから、術後の合併症として、甲状腺ホルモン(T4)が低下しすぎないか、また血中カルシウム濃度の低下が起きないかを、慎重にモニタリングしていきます。

状態が安定していれば、あと1〜2日で退院の準備を進めていきましょう。
その後 🐾
退院、1週間後の再診です。


退院してから、元気で食欲もあり、いつも通り過ごしています。

よかったです。
傷口も問題なく、本日抜糸ができそうですね。

血液検査🩸の結果も、
- 甲状腺ホルモン(T4)
- 血中カルシウム濃度
- 腎臓の数値
いずれも安定しています。
次は、1ヶ月後に再検査を行いましょう。
その後は体調や検査結果を見ながら、定期検診の間隔を徐々にあけていけると思います。

手術は不安だったけど、日常が戻ってきて本当に良かったです!
今後も、定期検診どうぞよろしくお願いします。

こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。
サチコちゃん、本当によく頑張りましたね!

(がんばったよ〜🐱✨)
まとめ 🌼
猫の甲状腺機能亢進症は、頸部にある甲状腺が腫大し(多くは良性の甲状腺腫)、
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、体重減少や嘔吐などの症状が現れる病気です。
特にシニア猫で発症リスクが高いことが知られています。
治療として最も一般的なのは、1日2回の内服薬によるホルモン抑制療法ですが、
猫では投薬が大きな負担になるケースも少なくありません。

外科手術は、ホルモン異常の原因となっている腫大した甲状腺を摘出し、根治を目指す治療です。
一方で、麻酔や術後合併症のリスクが伴うため、
高齢の猫で問題になりやすい腎臓や心臓の評価を十分に行い、術後も定期的な検診が重要になります。

今回ご紹介した、甲状腺機能亢進症に対して外科手術を選択したサチコちゃんの一例が、
治療を検討されている方の参考になれば幸いです。
※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。
参考文献
日本獣医内科学アカデミー(JCVIM)
「猫の甲状腺機能亢進症」解説資料
(診断・治療の考え方、内科治療・外科治療・放射性ヨウ素治療について)
Ettinger SJ, Feldman EC.
Textbook of Veterinary Internal Medicine, 8th ed.
Elsevier
(Feline Hyperthyroidism の章)
Peterson ME.
Feline hyperthyroidism: diagnosis and treatment
Journal of Feline Medicine and Surgery
(猫の甲状腺機能亢進症の標準的レビュー)
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