「下痢が止まらない、血便も出ました!」急な下痢で来院した犬の診察室より

下痢

愛犬の急な下痢、とても心配になりますよね。

何回も、繰り返し下痢をしている。
血便も出ている?!
すぐに動物病院に行った方がいい?

今回はシーズーのベルちゃんの例から、
下痢の状態から考えられる原因、
動物病院に行く目安についてまとめました。

症例:シーズーのベルちゃん

今日来てくれたのは、6歳のシーズーのベルちゃん。

尻尾をブンブン振って嬉しそうに診察室に入ってきます。

お母さん
お母さん

昨日の夜からずっと10回くらい、下痢を繰り返しています。
最後には血便も出ました。
朝ごはんは食べたけど、吐いてしまいました。
・・・大丈夫でしょうか?

私(獣医)
私(獣医)

それは、大変でしたね・・・。
(お母さんも、夜寝られなかったんだろうな💦)

診察

愛犬の急な下痢は慌ててしまいますが、
実は、様子を見て良い下痢も多いのです。
どのような場合でしょうか?

下痢で受診する目安

🟢 急性下痢で、様子を見てもよい例
  • 元気・食欲がほぼ普段通り
  • 水は飲めている
  • 繰り返す嘔吐がない

1日位は様子をみることも可。
食事を消化の良いものに変えたり、量を少し減らして、経過を見てみるのも方法です。

🍴下痢の時に使うご飯の例です⬇️

🔴 病院に行くべきサイン
  • 嘔吐を繰り返す
  • ぐったり、震える、元気がない
  • 子犬やシニアの下痢
  • 下痢が3日以上続く

こんな時は、なるべく早く動物病院に行くことをお勧めします。

🩸 犬の下痢に血がついているときの考え方

私(獣医)
私(獣医)

”血便” が出ると、とても心配になってしまいますが、血の出方によって、こんな捉え方をしています。

血の出方考えられる場所・原因特徴受診の目安
うんちの表面に少量の赤い血がつく大腸や肛門に近い場所(結腸・直腸・肛門)下痢や強い排便で粘膜が刺激されて出血元気・食欲があれば、1〜2日様子を見ることも可能
ゼリー状の粘液と血が一緒に出る大腸炎・ストレス性腸炎など「血便+粘液便」は大腸の炎症サイン元気・食欲があれば、1〜2日様子を見ることも可能
鮮血が多い・ポタポタ垂れる強い大腸炎・出血性腸炎など元気がなく、急に悪化することも早めに受診
血がうんち全体が黒っぽい(タール便)小腸より上の方
(小腸出血)
食欲低下を伴うことが多い胃や小腸の出血の可能性 → 早めに受診

ベルちゃんの血便は、ゼリー状の粘液と血が一緒に出るものでした。
大腸炎の症状です。

便検査

動物病院では、顕微鏡で便に何か含まれないか、調べます。

便検査でわかること⭕️

寄生虫の有無回虫・鉤虫・鞭虫・コクシジウム・ジアルジアなど

便検査でわからないこと❌

ウイルス、細菌感染、
アレルギー、炎症性腸症(IBD)、肝臓や膵臓など、消化器以外の問題

私(獣医)
私(獣医)

基本的に、動物病院で行う便検査は”寄生虫の有無”を調べる検査で、
下痢の本当の原因がわからないことも多いです。
しかし犬はお散歩の時などに何かうっかり口にして、感染する可能性があります。寄生虫を見逃さないため、便検査はとても大切です。

ベルちゃんの便からは、寄生虫は確認されませんでした。

超音波検査

超音波検査は、腸の動きや形の異常を直接見られる検査です。

便検査や血液検査だけでは分からない原因を探すのに役立ちます。

痛みはほとんどなく、時間もかからないし、得られる情報がとても多いので、
私の動物病院では、ほとんどの場合実施します。

検査の目的説明見つかることがある異常
腸の状態をみる腸の厚み・動き・内容物をリアルタイムで観察腸炎、腸閉塞、腫瘍、リンパ節の腫れなど
胃や膵臓の評価下痢と一緒に嘔吐がある時に重要胃炎、膵炎、腫瘍、異物の詰まりなど
肝臓・胆のう・腎臓の確認下痢の原因が消化器以外にあるかを確認肝疾患、胆のう炎、腎障害など
腹水の有無を確認炎症や腫瘍による液体の貯留を見つける出血・炎症・リンパ管拡張症など
私(獣医)
私(獣医)

ベルちゃんの超音波検査では、幸い、腹膜炎や腹水など確認されず、
大きな問題はありませんね。

胃のなかは空っぽで、吐き気はもう落ち着いていると思われます。

ただ、結腸の中にはまだ緩い便があるので、もう少し下痢が続きそうです💦

治療

急性の下痢の治療の基本的な目的です⬇️

治療の目的主な内容ポイント
脱水を防ぐ💧点滴や電解質補給軽〜中等症なら皮下輸液
腸を休ませる💤一時的な食事制限や消化の良い食事絶食は短時間にし、回復期は低脂肪・低刺激のフード
腸内環境を整える整腸剤・プロバイオティクス軽度の下痢では整腸剤だけで改善することも

抗菌薬や、下痢止めはすべての下痢で必要なわけではありません。
寄生虫など、原因が明らかな場合はその治療を行います。
重症では、入院治療で静脈点滴を行うこともあります。

ベルちゃんは、皮下輸液と、下痢を抑える注射💉をしました。

そして、整腸剤を5日間飲ませてもらうことにしました。

帰り道で下痢が出ないように、おむつをして終了です。

急な下痢には、お部屋やお尻周辺を汚さないように、犬用オムツを常備しておくのもお勧めです。⬇️

お母さん
お母さん

診察してもらって、便検査や超音波検査などを行って、安心しました。

これでベルちゃんの下痢が落ち着いて、ベルちゃんも、ご家族も、
今夜は無事に寝られますように・・・ 

まとめ

犬の急な下痢、そこに血が混じっていたら、とても心配すると思います。
しかし、下痢や血便の考え方、対応方法を知っていると、少し安心できるのではと思います。
もし、犬が下痢をしてしまったら、

  • 便の状態を確認し(写真🤳を撮るのもお勧めです)、
  • 便を少し取って、(ティースプーン1杯分くらいでOKです)

動物病院に来院してみてくださいね!

もし嘔吐を伴っていたり、頻回であれば、脱水が進行してしまうので、なるべく早く来院することをお勧めします。

急に下痢をしたベルちゃんの一例、参考にしていただけましたら幸いです。

※本記事は、獣医師としての臨床現場での経験に基づいてまとめています。
個々の動物によって症状は異なりますので、気になる場合は動物病院での診察をおすすめします。

参考文献
参考:日本獣医内科学アカデミー『小動物内科学』(文永堂出版, 2021)/
Ettingerら『Textbook of Veterinary Internal Medicine』(Elsevier, 2017)/
WSAVA ガイドライン(2020)

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